マレーシア
サラワクとブキメラ
私達が日本で耳にするコマーシャルソングにマレーシアの歌手の歌声があります。
そしてそのテレビのブラウン管の発光物質には、マレーシアから輸入されたキド金属が使われています。
それを生産している工場では、放射能を含んだ廃棄物がたれ流しにされて、住民に被害を及ぼしています。
なんと皮肉な光景でしょうか。
1ヘクタールの森林に60種類もの樹木が茂り、地下には豊かに鉱物資源を蓄える国。
中世に王国の栄えたマラッカは海上交通の要衝です。ポルトガル、オランダ、イギリスの植民地となり、太平洋戦争では、日本の軍政下で資源と財産と多くの人命を奪われたマレーシアは、いまではすこやかな新興国として海外からの観光客を温かくもてなしてくれます。
しかし、なにも問題がなくなったわけではありません。
マレーシアをおとずれる日本人はサワラクという地名を忘れてはならないでしょう。日本で、ビルを建設されるために、膨大な量の木材から作った型枠を使用します。
その木材を日本は、カナダや南米や東南アジアから輸入しています。マレーシアにとっての最大の木材輸出国は日本です。
日本の商社は、一度に大量の木材を手にいれるためにサラワクの熱帯雨林を根こそぎ切り倒し、運び去ります。
あとにはスコールが降れば、流れてしまうひ弱な土と、森林のもたらす恵みで生活してきていた先住民の人たちです。
サラワク北東部の開発が現地のブナン族の生活基盤を奪ったニュースは日本でもたびたび報道されました。
そして、日本人がいま一つ忘れてはならないマレーシアの地名がブキメラ村です。
今から20年前、三菱化成はモナザイトという鉱石から、キド金属類を生産するためにマレーシアに進出することにしました。
1979年に三菱化成はマレーシアのベ・ミネラルズ社との共同出資によりARE社を設立。さらにその3年後には、マレーシアのブキメラ村で操業を開始しました。
ARE社が生産するキド金属類とは、カラーテレビの発光物質や半導体の原料といった、ハイテク産業になくてはならないものです。
問題は、このキド金属類を取り出したあとの廃棄物にもともと含まれていたトリウム232という放射性物質が大量に残され、それが不法投棄されていたことです。
AREが操業してから2年後にブキメラ村の人々は、このことに気付き立ち上がりました。そしてARE社に対し操業停止等を求める裁判を起こし、仮処分決定が下されました。
その結果、操業は停止され、放射能廃棄物の一部は仮備蓄されましたが十分な対応は行なわれないまま、マレーシア政府は、操業許可を与え、再び工場は動きだしました。
住民の反対運動が再燃しましたが、今度は、反対運動のリーダーや弁護士が逮捕されるというありさまです。
5年の闘いの末、高等裁判所はついに住民の訴えを認め、勝訴しました。
この判決により、ARE社は現在でも操業停止と現状回復を求められています。
しかし、ARE社は最高裁に上告しており、廃棄物は、いまだ、不十分な設備に放置されたままです。
サラワクとブキメラ。戦争でつぐないきれない罪を犯した日本人は、いま、またしても暴力的な行為をおこない続けています。
日本に住む、私達こそが考えなければならない問題ではないでしょうか。
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