環太平洋反原子力会議
神戸声明

(市民による環太平洋原子力会議声明文)



 95年1月17日に起きた地震は、私たちへの問いかけを続けています。
この地の地震が十分予測されていたにもかかわらず一般にはほとんど警告されていなかったこと。耐震設計がなされているといわれていた建築物が数多く壊れたこと。大規模な被害のために救援・消火活動がわずかしか行えなかったこと。そして、今なお困窮を極める被災者に対してなんら公的な補償が行われないこと。
 これらは、この地震の被害が人災であり、この国が災害に対し被害を抑える技術をもっていないばかりか、人命を尊重する姿勢すら持ち合わせていないことを浮き彫りにしています。
 その人災の地・神戸で「環太平洋原子力会議」が行われることに私たちは大きな危惧をいだいています。この会議は原発を推進する機関・企業と原発の建設を予定している者たちが集まり、原発建設について検討されるからです。そこで私たちは「市民による環太平洋原子力会議」を開き様々な点について学びました。

 そもそも、環太平洋地域は環太平洋地震帯と呼ばれる地震の巣でもあり、すでに原発が立地されている地点はもとより、これから建設されようとしているインドネシアも地震多発地帯です。しかし、地質や断層の位置などを正確に知ることは困難であり、地震の危険のない地点を探し出すことは不可能であることが国内の専門家から報告されました。そこで、日本では電力会社や科技庁が勝手に甘い評価を行うことにより原発を建設してきたのです。直下型地震には原発は耐えられません。他の国々でも状況は同じと見られ、いわば環太平洋地域の原発は、いつ地震により壊滅的被害をもたらしても不思議ではない状況にあるといえます。

そして、原発は日本国内でもカネや地縁を使った工作により立地地域を屈伏させるかのように建設を強制させようとしていることを、私たちは珠洲・巻町からの報告であらためて知りました。そして韓国・台湾では、日本が原発を受け入れていることを「ヒロシマ・ナガサキを経験した核に敏感な日本でも、原発は市民に受け入れられているから大丈夫だ」といって宣伝されているというのです。さらにインドネシアでは「地震国日本でも運転されているから大丈夫だ」と宣伝されているというのです。原発はまさにウソとカネで作られているといえます。今回の「環太平洋原子力会議」においても、いわゆる「PA」と称する宣伝工作が討議テーマの一つとされていることに、私たちは強く抗議します。

更に、インドネシア・台湾からの報告により、原発の輸入がいかに非民主的・暴力的に行われようとしているか、私たちは学びました。10月18日、台湾立法院では、国民党による暴力的な強行採決によって第4原発建設が決議されました。最悪の公害・原発を輸出することはあらたな侵略と呼ぶべき行為であり、インドネシアに三菱が、台湾には日立・東芝が原発を輸出しようとしていることを私たちは絶対に許せません。

 先頃締結された包括的核実験禁止条約(CTBT)で、核兵器のみでなく原発や研究施設を持つ国々の批准もその発効条件とされたことでも明らかなように、核の「平和利用」と「軍事利用」は不可分一体のものです。従って再生可能エネルギーを選択することは同時に平和への道を選択することでもあるのです。本来ならば、自然エネルギーをうまく活用することにより多くの国々でエネルギーの自給が可能です。そしてそれは日本のようにすでにエネルギーの集中生産と浪費のパターンが確立されてしまった国よりも、原発のまだない国々こそ先駆者となるべき技術であるといえます。

 この地は、原発の建設について話をするのにふさわしい場所ではありません。この神戸は原発を止めようという声を上げることこそふさわしい町なのです。
私たちは「環太平洋原子力会議」の参加者と原発を推進するすべての勢力に対し、我々の声に耳を傾け、原発の建設をやめ原発を止めるための努力を始めることを要求します。
私たちは訴えます。もうこれ以上、核の被害者を増やしてはなりません。ウランを掘り出さないこと、核の利用を止めること、核廃棄物を未来に残さないこと。

この地で、形あるものが壊れ果てても、助け合う心が生き続けたように、環太平洋から核がなくなる日まで、私たち民衆の連帯の絆が生き続けると確信しています。


1996年10月20日
「市民による環太平洋原子力会議参加者一同」





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