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第一回 日本
東京 ノーニュークス・アジア会議

討論 第二日



司会(河田)
 今日6月27日のスケジュールについて説明します。はじめに昨日の議論をふまえて、実行委員会の宮嶋から短いまとめを行ないます。そしてそれを受けた形で、昨日からの「日本のプルトニウム大国化をどう阻止するのか」という議論を継続したいと思います。プログラムでは今日の午前から、アジアのネットワークをどうつくるかという議論をすることになっていましたが、プルトニウム問題を午前中にやって、ネットワークの議論を午後にしたいと思います。そして、もし今日の午後にネットワークについて、明確な結論がでない場合には、名古屋の会議に持ち越したいと思います。でははじめに日本実行委員会の宮嶋から、昨日の議論の短いまとめを話していただきます。




昨日の議論のまとめ
宮嶋信夫
 おはようございます。昨日の遅くまでの討論に続き、朝早くからご出席いただき、たいへんうれしく思っています。昨日の報告、特にアジア諸国からの報告は、たいへん内容の深い重要なものであったと受けとめています。特に、私どもが考えていた以上に日本のプルトニウム政策が重大な問題であるということを、それぞれの民衆の立場から報告していただきましたし、日本の核政策がどのような影響を持つかについて、各国から貴重な意見を寄せていただきました。
 それらを要約しますと、アジア全体として見るなら、日本のプルトニウム政策は単に日本のエネルギー政策、あるいは原発推進のうえでのひとつの政策ということではなく、アジアにおける核拡散の競争を生みだし、核のドミノ現象をつくりだしていく政策だという、極めて厳しい批判がありました。その政策は同時に、インドやアジア全域の核の状況をさらに挑発するかたちで、世界の核の状況をも転換していくことになるということについても厳しい批判がございました。
 もうひとつは、このプルトニウム政策は単に核政策だけではなく、日本が今日行なっている世界への経済進出、とりわけアジア全域に対する経済的な支配と結びついており、日本の政治的軍事的動向と結合しながらアジアと世界の状況に影響を与えていくことです。
 特に強く語られたのは、PKO参加に代表される自衛隊の海外派兵、また国連常任理事国への日本の欲求など、こうしたものとプルトニウム政策は結びつきながら、一方では戦争責任を不明確にし、戦争に対する十分な反省をしないままで、日本は再び戦前と同じような侵略の道に進んでいくのではないか。かつては日の丸のもとで日本がアジアを侵略した。今度は国連の旗のもとにアジアを侵略していくのではないか、という厳しい批判がございました。
 次には、チェルノブイリの事故が示すように原発には国境がないこと。600キロメートルの被害の範囲が示す、すなわち「アジア全域は原発をめぐって運命共同体である」ということについて、非常に鋭い指摘が各国からありました。特に台湾の方から、「われわれは運命共同体であるという立場にたって反核の運動を進める必要がある」と指摘されました。
 それに関連して、チェルノブイリという大事故だけではなく、日本でも韓国でも台湾でも、原発を設置している地域では、非常に重大な死亡事故がすでに発生していることも明らかになりました。このような事故が隠されたまま原発が推進されており、アジア諸国に対して行なわれている「日本では安全だ」という宣伝の背後にも、隠された事故による死亡者が数多く存在をしていることも指摘されました。
 そして、そのような意味で、原発は核爆弾と同質のものであり、人類と共存することはできない、ということが指摘されました。
 3点目として、各国の反核・反原発運動についての力強い報告がありました。まず韓国では安眠島運動の勝利に示されるように、反核運動が非常に前進しています。同じように台湾でもヤミ族の方々のたいへんな闘争があり、それから第4原発の建設反対闘争と、反原発運動はアジアの各国で前進しているという指摘がありました。同じような意味でマレーシアにおける放射性廃棄物反対運動を含め、インドでも、インドネシアでもアジア全域で草の根の民衆運動が力強く、幅広く進行しているという報告を受けました。
 4点目としては、第三世界諸国における原発の推進が、特に第三世界諸国における民衆への抑圧、日常的な人権への侵害、人々の無権利状態ともいえるような社会体制のもとで推進されていることです。そのような社会体制の変革と結合することによってはじめて、原発をなくす運動が勝利することができる、ということも報告されました。
 以上のような重要な報告を通じて、アジアにおける、反原発・反核のネットワークをともにつくりあげていき、われわれアジアの民衆が共同して闘うことが急務であることが明らかになった、と考えています。以上が簡単ではございますが、昨日の討論のまとめです。
 これをベースにして、先ほど司会が提案したように、これからアジアの民衆の反核ネットワークをいかにつくりあげ、そして具体的な行動をいかに進めていくかが、これからの討論の課題であると思います。よろしくご協力をお願いします。

司会(河田)
 どうもありがとうございました。では昨日の議論の続きに入りますが、昨日の議論のなかで、日本のプルトニウムの大量備蓄についての認識、解釈について、若干相異のある議論がでました。その認識によって、今後われわれがどのように闘うのかが規定される側面があると思います。そこで、その議論をまずはじめに行なって、それからわれわれがどのように日本のプルトニウム大国化に対処していくのかという議論に進んでいきたいと思います。今日は特にどなたに発言いただくというふうには決めていませんので、ご発言の希望のある方は挙手をお願いしたいと思います。
 どなたか‥‥‥はい、高木さんどうぞ。

日本の核武装化という観点について
高木仁三郎
 昨日、冒頭で私が提起をして、そのあといろいろな意見がでたんですが、フォローする議論ができなかったので多少発言したいと思うのですが、時間がないのでひとつの問題に限ってお話をします。それは、日本のプルトニウム政策を、日本の核武装化という観点にからんでどう見るかという問題です。
 私は日本のプルトニウム政策というものを、日本の核武装化という観点よりも、むしろ世界的な原子力産業の延命という問題を日本が最後の砦としていま解決しようとしている、そのための政策だと考えます。そして、それをつぶそうとする勢力とが大きく争っている、という話をしました。それが昨年、日本がプルトニウム輸送を強行したときに見られる全世界的な反対となってあらわれてきた、という構造をとっていると思います。それでこのときの運動は、日本政府を相当追いこんだと思うんです。実際には輸送をとめることはできなかったけれど、かなり追いこんでいて、その影響はいま、ダメージとなってプルトニウム政策に残っていると思います。こういう方向で、国際的な連帯のうえで、特にアジア諸国との共同の運動によって、プルトニウム大国化に対する運動を進めていくことが必要だということをお話しました。
 これに対して韓国の金さんであるとか、その他アジアの国の方々からは、日本のプルトニウム大国化は、実は日本の核武装をにらんだものではないか、という発言が相当ありました。私はアジアの諸国の人々が、かつての日本帝国主義の軍事侵略を非常に重視して、さらに今後の日本の軍備増強によるアジア支配への動向に大きな警戒心を持つことは、たいへんよく理解できます。そういう警戒心を持つことは、当然必要なことだと思いますし、私自身も仮にいまのような形で日本のプルトニウム政策が進んでいくならば、いつの日にか日本がプルトニウム利用を核兵器に転じる可能性は十分あると思います。もちろん、そういう警戒心は怠ってはならない。プルトニウムというのは、軍事というものと非軍事・商業利用のあいだに明解な境界線を引くことができない、と思います。
 ただ、日本でいま行なわれているプルトニウム政策の性格を、基本的に軍事的なものとみなして、反軍事利用という形で私たちの運動をくむというのは、一面的にすぎるのではないか。アジア各国に対しても、日本は軍事侵略というよりはむしろ経済侵略の形で、ODA(政府開発援助)であるとか、政府の様々な公的装置を使いながら、総合的な侵略の形をとってやってきた。そして原子力もその例外ではなく、今後いろいろな援助という形をとりながら、日本の原子力産業がアジアに原子力を売りこんでいく。いわば、原子力の平和利用という名を通じて公害輸出をやっていくというところが、かなり大きなポイントになってくるのであって、そういう面をとらえた総合的な把握の仕方と、それに対する広い運動のくみ方が必要なのではないか。日本のプルトニウム政策を軍事の面だけでとらえるというのは、むしろとらえ方を狭くするし、運動の広がりを狭くしてしまう可能性もあり、日本のなかで広範な人たちに対する説得力を持ちえない側面があるのではないか。このことを、ひとつ指摘しておきたいと思います。
 ただ私は、それを踏まえたうえで、いまアジアにおいて日本をきっかけとする、いわば一種の核のドミノ現象によってプルトニウム開発競争が始まるおそれは十分にあると思います。その点は金さんの指摘に賛成なので、そういう意味ではアジアにおいていっさいの再処理をとめることをかなり意識した非核アジアの構想を、私たちの運動のなかで進める。アジアの非核化運動を共同でやっていくことは、非常に緊急の課題であるし、重要な課題であると思います。
 かつて朝鮮半島の非核化という構想が南北の朝鮮のあいだで出されながら、なかなか実現していない。そこにまたアメリカや日本の影があると思うのですが、そういうことを払いのけ、朝鮮半島からさらにアジア全体の非核化という構想を、いまここに集まっている人たちが共同でどうつくれるかを、具体的に議論できたらいいと考えます。

司会(河田)
 どうもありがとうございました。いまの高木さんのご意見に対して昨日、韓国の方のご意見はうかがったわけですが、そのほかの国のご意見もうかがえたらと思います。日本の方でも結構です。どうぞ。

知らせることが大切だ
会場発言(神奈川・男性)
 時田です。自分のことについてはあとでいいますが、私も高木先生の意見に賛成で、日本の支配層がすぐに核武装に乗りだすほど、彼らは愚かではないと思うんです。むしろ、独占資本がいま核で得ている利潤を続けて得るためにプルトニウム政策があると思うのです。ただ、過去にこれだけひどい被害を受けたアジアの人たちが、日本の支配層の意図とは別に、また日本は軍事の面で悪いことをするんじゃないのと誤解するのは、これは当然だと思うのです。そのことが一般兵器も含めたアジアの軍拡を、ますます広めてしまういちばん大きな可能性としてあると思います。
 明治学院の浅井先生なんかが多くの資料をあげて指摘していますが、たとえばマレーシアなどが、かっこいい飛行機とか、通常兵器をどんどん買っていく動きがあって、それは国民経済には非常に大きな負担になるのです。そういったアジアの国々の政治家が、国民経済を犠牲にしてまでも危険なおもちゃを買うときに、国民に対するいいわけになるわけですね。恐ろしい日本がプルトニウムを持ってるということが。そういう点を考えなければならないし、中国なんかが軍拡をするときにも、それが原因になってしまうという点には気をつけなければならないと思います。
 それから運動のやり方として、日本の支配層の意図が軍拡にあるのか、あるいは山岸さんという電機労連の下品なおやじさんがいますが、ああいった人たちの金儲けにあるのか、それはどっちであろうと、まずは一般国民がプルトニウムが恐いものだという事実を知ることがよっぽど大切なことなんだと思います。だからいちばんあたりまえの、その地平から作業をしていくことのほうが、推進側の意図を知るよりも重要だと思うんです。
 私はつまらない職業をしてまして、藤沢で数学の塾をやっていて、そこからは東京大学にポンポン受かるんですが、そういう受験生もプルトニウムの恐ろしさなんて全然知らないし、高等学校でもそういう教育を受けていないのです。高等学校の日本史で、教科書に日本が過去にアジアでしたことがほとんど出てこないだけではなく、日本史の授業がそこまでいかずに土器ばっかり教えて終わってしまう。同じように、学校が三流予備校みたいになってしまって、つまらない数学のテクニックは教えても、物理の基本的な考え方は教えないということが大いに問題だと思うのです。
 それから学校の図書室に、本が入ってない。たとえば、みすず書房からでている『チェルノブイリの遺産』だとか、ちょっと体制側の本だけれど科学的にきちっと書けている日本評論社発行の桜井さんの本だとか、こういった本をみなさんがPTAの会員ならば、子どもが通っている中学や高校の図書館に買わせていくこともひとつの運動です。とにかく普通の人がまず、プルトニウムという恐ろしい物質があることを知ってるわけではないので、日本の支配層の真の狙いがなにかという議論は大切だけれど、まず自然科学のものの見方を普通の人が身につけていくという運動論のほうが大切じゃないかと思います。

司会(河田)
 どうもありがとうございました。どうぞ。

核武装は秘密裏に進む
会場発言(神奈川・男性)
 相模原で反原発の運動をしている坂口といいます。高木先生を含めたふたりの方のいまの意見とほぼ同じなんですが、つまり基本的な考え方の問題という点では同じなんですが、見方の問題について、私なりの意見を少し述べさせていただきます。
 まず、プルトニウムをとにかく持たないようにしていこうという点では、ここにいらっしゃるみなさん、どなたも意見は同じだと思うんですが、それをどう位置づけるかの問題です。確かに高木先生もおっしゃったように、現在の日本は核武装を明確に位置づけている政府ではないという点の認識では、私もそう思っています。ただ、日本の非常に不透明な、何が起こるかわからないという、国民でありながらわからないという不透明さがあること、あるいは今年の1月4日だったと思いますが、外務省の高官が外交的なプレゼンスとしてプルトニウムを持つ意味があるといういい方をしていること。さらには核拡散防止条約ですか、要するに他国がプルトニウムにアクセスすることを禁じ、国内的には秘密のベールのうちにその利用が行なわれることなどから考えると、われわれのように意識している人も知らないうちに、いつのまにか核武装が行なわれる可能性は十分ある。そういう意味で、核武装を意識した行動をとる必要があるのではないかと思います。
 もうひとつ、ちょっといやないい方ですが、戦術的な面では高木先生がおっしゃったのとちょっと意見が違う部分があります。それは、核をエネルギー政策あるいは原発推進政策の延命策としてとらえるといういい方で、その言葉を強めるとですね、どういったらいいのか、核武装反対とか反軍事・反基地のような活動をしている人たちをとりこめない。いい方が変ですが、そういうことが考えられるだろう。ひるがえってわれわれ、いわゆるエコロジーあるいは環境問題、あるいはエネルギー問題に関心ある人たちだけの運動というふうに、逆な意味で狭くなってしまう可能性があるのではないか。
 時田さんのおっしゃったように、日本の大多数の人たちは、おそらくプルトニウムについてほとんどなんの意識も持たない、持たされない教育をされている現状があるわけです。だからそいういう意味で、日本が核戦争、核武装にむかう可能性、危険性をもっと強調する必要が戦術的にはあるのではないかと思うのです。
 もうひとつの意見は、私は昨日の夜いなかったので、どのような議論がなされたのかわからないのですが、アジアのいろんな国の論調を新聞などから見ますと、確かに日本が過去やってきたこと、いまこれからやりかねないことに対して、各国がとても脅威に感じているわけです。まさに、時田さんもおっしゃったように、日本がプルトニウムを持つことによって他国が核を持つことのいいわけにするため、核武装の可能性は高くなってしまいます。こうした理由から私はやはり、エネルギー政策あるいはそれの延命策というふうにだけとらえるのではなく、核武装の危険性、そしてプルトニウムの危険性をもっとアピールする運動を展開していく必要があると思います。

日本の核平和利用の特殊な背景

司会(河田)
 ありがとうございました。これまでの議論をうかがっていて感じたことをもうしあげたいと思います。特に海外からの参加者には、日本の事情のなかで行なわれている議論はわかりにくい側面があると思います。それは、日本の事情が特殊なことによると思います。
 というのも日本は戦後、われわれは核武装は行なわない、と非核三原則をつくりました。そして、日本政府も産業界も、原子力に関してはもっぱら商業的な側面、つまり電力をつくる、原子力を推進するに際して、平和利用に徹することをずっと掲げてきたのです。ですから、いかにその路線を堅持するかに、推進側もある意味では非常に神経を使ってきたのです。
 しかしプルトニウムの問題が出てきて、その推進側にも論理の破綻が起きつつあるのが現状ではないかと思います。それは、昨日の高木さんの分析にもありましたが、エネルギー問題としても彼らは原子力の必要性を説明できなくなっている。だから、哲学的な側面があるとか、将来の国家のあり方が問題であるとか、非常に抽象的な、わけのわからない議論をしていると思うのです。それがいまの実情ではないかと思うのです。
 しかし海外、ヨーロッパなんかに関していえば、原子力は、原発をつくっている企業も核兵器をつくっている企業も同じ企業であって、推進側の実体は同じものであるわけです。ですからそういう面で、受けとめ方は統一的に解釈され、それに対する反核運動が行なわれてきた。おそらく、それはアジアの人々にとっても、近いのではないかなと思います。原子力を推進する企業に対してということではなくても、原子力を否応なしに受け入れざるをえない立場に追いこまれる人々としては、そう受けとめて当然ではないかと思います。
 そういう日本の特殊な背景が、現在運動のレベルでも、プルトニウム政策をどう受けとめるかの、意見の相異を生じている大きな原因ではないかと思います。ですから、そういう事情を頭に置いたうえでご発言いただければと思います。日本のわれわれは、あくまでも特殊な環境のなかにいるんだと思います。
 さて、どなたか継続してご発言お願いします。どうぞ、広瀬さん。

三菱ボイコット運動の提案
広瀬隆(東京)
 アジアの方のために、前へ出て顔を見て話をしたいと思います。広瀬ともうします。特別な組織に属していませんが、私は昨日のお話のなかでいちばん身を切られるように痛かったのは、マレーシアのジャヤバランさんのスライドでした。そして、ここまでの議論と昨日の議論に関連して、ひとつ具体的なことをもうしあげて、理解いただきたいことがあります。
 軍事問題と原子力の商業利用の問題というふたつの問題がからみあって、大きな問題になっていると思います。昨日からずっと聞いていると、日本が全部悪いという立場にあり、そしていまインドネシアに原発を輸出する、あるいはタイに輸出するかもしれないという話さえ出てきています。私は、私たちの身体のなかを走りまわっている一匹の悪魔がいるんじゃないか、と思います。そしてその悪魔の働きを具体的にとめようということでは、いま高木さんがおっしゃった非核地帯にするということも、ともに考えていきたいと思いますし、あるいは、ヨーロッパ会議のようなアジア会議がどこかでできてもいいと思います。
 しかしここでみなさんに提案したいのは、民衆レベルで具体的にできることがあるのではないかということです。もちろんひとりではできませんが、もしみなさんがともに手をくめばできると思います。具体的にとめることです。
 先週、関西を学習会で数日間回ったのですが、最初はPKOの問題でした。そのあとはずっと、もんじゅの学習会をやって、また最後がPKOの問題でした。つまりいま日本で最大の問題は、軍事問題とプルトニウム問題です。昨日高木先生がおっしゃったように、もんじゅは本当に恐い。あの高速増殖炉はいつ大事故を起こすかわからない状態です。ではなぜそれを進めるのでしょうか。
 昨日発言された方、和歌山の方でしたか、利権の問題を口にされました。それから、いまもだいぶ利権の問題が出てきています。この利権者のトップとして、その悪魔の名前をあげます。それは三菱です。そこで、「ボイコット三菱」運動はできないだろうか、ということを提案します。
 なぜ三菱かといいますと、まずマレーシアの加害者がそうです。三菱化成です。そしてもんじゅの原子炉メーカーはどこでしょうか。三菱重工ですね。それから、もんじゅと抱きあわせで、もうひとつの最大の問題が、青森県六ヶ所村です。この核燃料サイクルのプラントの幹事会社が三菱重工です。これがいま、原子力の大きなところを握っています。それから、司会をなさっている非核フィリピン連合のコラソンさんの昨日のお話に出てきた、ウエスティングハウスと手をくんでいるのが三菱です。それからいま、タイへ、インドネシアへ原子炉を輸出しようとしているのが三菱重工です。もし可能なら、アジアだけではなく、ケンプさんもいらっしゃいますし、ヨーロッパやアメリカへと、この運動が展開できないか。具体的にいま、このプルトニウムサイクルを全部動かしているのが利権者の三菱だということを、私たちの当面の課題として、考えてみたいと思うんです。

プルトニウムと三菱の長いつきあい
 三菱ボイコット運動というのは、単なるアイデアではありません。そもそも最初にプルトニウムが使われたのは、長崎です。なぜ米軍が長崎に原爆を投下したかというと、あそこには三菱が大造船所を持っていたからです。昨日、広島の大庭さんのすばらしいお話がありましたが、長崎のほうも同じ状況です。まさに三菱の町であるから、その軍需工場に対して米軍は原爆を投下したわけです。皮肉なことですが、そこからいまのプルトニウム産業の三菱として、また頭を持ちあげてきたのです。そしていま、自衛隊の主力戦闘機のメーカーが、やはりマクダネルダグラスからライセンスをもらって生産している三菱重工です。そして次期主力戦闘機の主力メーカーも三菱重工です。プルトニウムサイクルから兵器まで、すべて三菱でつながっています。そして、金源植さんからたびたびうかがっているのは、三菱が韓国の巨大な、原子力その他を含めた軍需財閥とくっつき、その裏で動いていることです。こういうことを考えると、いま私たちの共通の言葉は、三菱なのではないかと昨日から感じています。
 私たちの生命を狙っているものがあるとしたら、それはもちろん東芝も日立もありますが、当面私たちがプルトニウムを焦点にするのなら、ボイコット三菱運動がここから発展してできないか。もちろん私は、三菱を憎むのではありません。ですからたとえば、いくつか条件をつけたほうがいいと思います。ひとつの条件は、プルトニウム政策を放棄する、つまり再処理工場の建設をやめるまでボイコット運動を続ける。そして、マレーシアの人たちに対し、きちっとした補償をするまでと。こういういくつかの最低限の条件をつけたうえで、このボイコット運動をやっていく。
 私は昨日の夜、布団のなかで思い浮べたんですが、放射能マークにダイヤのマークを重ねたら、そのままこの運動のシンボルマークになるだろうと思いました。これはひとつの考えですけど、提案させていただきたいと思います。

司会(河田)
 どうもありがとうございました。たいへん具体的なご提案でしたが、これに対してなにかご意見がありましたらどうぞ。

三菱化成に抗議の声を
会場発言(東京・女性)
 東京の主婦です。いまの発言をもっと具体的にと思い発言させていただきます。ジャヤバラン博士の語るブキメラ村へ、私も昨年の夏行って、村人と話をしてきました。そうしたらヒュー会長、村で一生懸命運動している会長さんが、「日本でできないことを、なぜ私たちの国でやるのですか? 日本では公害がひどくてだめになった産業を、なぜマレーシアのこの素敵な、自然の美しい村に持ってきてやり、そのうえ何の相談もなかったのか」と語ったんです。放射性物質が積まれているところで、子どもたちが遊んでしまったんです。マレーシアはスコールが多いですから、そこから流れでた水が井戸に入って、その井戸水を飲んだお母さんから生まれた子どもが、いまジャヤバラン博士のお世話になって、たいへんな苦労をなさっているんです。お金がないので、私たちもカンパを集め、ようやく診療所がブキメラ村にできました。
 私たちは実際に、毎月第3木曜日の12時から40分間ぐらい、三菱化成本社前で、公害輸出をやめろ、と訴えています。もしここにいらっしゃる方が、第3木曜日の昼休みに東京駅前の三菱化成本社前においでいただけたらありがたいのです。29日には三菱化成の株主総会が開かれるので、そこへ行ってまたシュプレヒコールをやる予定です。微々たる力ですけど、活動を開始していますので、みなさまのご協力をお願いします。またブキメラ医療基金の方にもご協力いただけましたらと思います。市民運動をやっているものとして、できることから切りこんでいきたいと思いますので、ご協力をお願いします。

司会(河田)
 どうもありがとうございました。三菱についての議論もまだあるとは思いますが、今日の午前中の議論は、できるだけプルトニウムの利用と核拡散の問題に焦点をあわせた議論をしたいと思いますので、ご協力をお願いいたします。どうぞ、ジャヤバランさん。

経済の拡大は軍事大国へつながる道
ジャヤバラン(マレーシア)
 あまりまとまっているとはいえないのですが、ちょっとコメントします。私としては、この場で日本の核武装の可能性といった出口のない議論をしたいとは思いません。ほかにも考えるべきことはいろいろあります。
 最初に昨日もとりあげられていた代替エネルギーの問題から始めましょう。問題は、私たちに利用可能なエネルギーは、そもそも枯渇しそうなのかどうかという点ですが、それすらもいまだ全体像は明らかではありません。しかしはっきりしていることもあります。エネルギーを浪費しているのはだれなのかということです。エネルギー資源を使い果たそうとしているのはアジアの人々でしょうか。いいえ、西欧諸国です。このことが現在起きている様々な問題を解き明かす鍵です。たとえば日本の技術輸出のことがでていました。マレーシアにも、鉄鋼や自動車などの技術輸出が行なわれています。タイやインドネシアやフィリピンでも同様でしょうが、それらの技術輸出は、その国のためにはほとんど役だっていない。日本の経済拡張主義は、ギブアンドテイクの形ではなく、ただテイクするのみなのです。
 もうひとつコメントします。だれがいっていたのか覚えていませんが、軍事利用さえなければ、日本のプルトニウム利用計画は愚かな選択ではない、という意見についてです。私はそうは思わない。プルトニウムが信頼にたるエネルギー源ではないという現状を直視しないだけで、十分愚かなことです。
 プルトニウムの平和利用というのは、拡張主義政策をとってきた列国の歴史を見ていけば明らかなように、矛盾であります。ある国が経済的な拡張主義政策をとっていく場合、国境によって他国と隔てられている自国内市場からまず拡張が始まり、徐々に資本輸出などの形をとりながら外へ進出していく。そしてある時点から、それは「搾取」という言葉がふさわしいような構造になっていきます。そのときまでには、あなたがたが好むと好まざるとにかかわらず、軍隊あるいは防衛政策がその搾取構造を支える役割を果たしてきたのです。拡張主義のもとでは、これはごく自然なことです。そしてこの種の変化が、いまやはっきりとあらわれているではありませんか。国連の旗のもとでカンボジアに部隊を派遣したのはどこの国だったでしょう。日本ではありませんか。私の見るところ、日本の平和主義政策は、緩やかに崩壊しつつある。これは経済拡大主義の帰結です。経済大国化と軍事大国化というふたつの現象を切り離して論じると、その全体像を見失ってしまうのではないでしょうか。
 環境破壊もまた、先進諸国の際限なき浪費政策によってもたらされるもののひとつです。それにより富を得るのは一部の人だけであり、大多数の民衆はいっそう都市の周辺部へと追いやられます。先に述べたことのくり返しになりますが、日本が行なったことをもう一度明らかにしましょう。
 1971年、モナザイトの分離・精製の処理工程での危険性が明らかになったことを受け、日本企業は日本国内でのレアアースの生産を中止しました。そしてどうしたかというと、その生産工程をマレーシアに持ってきたのです。マレーシア人の健康など経済進出の前には意味をなさないということでしょうか。このARE社の問題以外にも、私が知りえる範囲で、工場労働者の様々な健康被害が報告されています。その最大の加害者が日本企業なのです。
 ここでは原子力の問題を語るだけでは不十分だという事実を指摘するにとどめたいと思います。必要なのは全体の構造を見すえることです。確かに原発輸出をしたがっている人がいるでしょう。プルトニウムの問題は急務でしょう。しかしそれだけでは十分ではない。そのような動きが日本の経済進出の方向、さらに軍事的動向と一致していることが問題なのだと思います。それをはっきりと認識すべきだと思います。

核の戦略的計画
パドマナバン(インド)
 昨日話したことと重複するのですが、ちょっとコメントします。この問題を議論するのに欠けている視点を提供したい。それは防衛における戦略的計画と実際的な計画の区別をきちんとつけるということです。この会議の参加者にも、そのあたりの理解があいまいな方がかなりいるのではないでしょうか。
 昨年、日本政府がフランスで再処理したプルトニウムの輸送を決定して以来、日本国内はもとより世界中で反対の声があがりました。当然、日本が核武装するのではないかという危惧も強いものです。私は日本がただちに核武装するとは思っていませんが、将来にわたって日本政府の防衛・軍備計画に変更がないともいえないと思います。
 今日、日本の人々はプルトニウムのことを議論しています。もう一般の人たちの会話にすら、プルトニウムという言葉が登場するようになっています。しかし徐々にその言葉のインパクトは薄らいでいき、おそらく英国などからプルトニウム返還がされるころには、人々はもう慣れっこになっていることでしょう。次のプルトニウム輸送のときには、兵器級プルトニウムの形ではなく、燃料に加工した形での輸送になるかもしれません。特に英国は、日本に兵器級プルトニウムを渡すことには同意しないと思われるからです。
 では2年あるいは3年後にはどうなっているでしょうか。日本の経済学者の分析でも、国際的な環境保護運動の高まりはプルトニウム輸送の全面禁止へ向かうとされています。しかし、いったんMOX燃料やプルトニウム燃料の利用へ道を開いたなら、プルトニウムなしではやっていけなくなります。それが日本が再処理工場建設を急ぐ理由でしょう。再処理工場では、純度10%程度のプルトニウムを80%あるいは90%にも高めることが可能です。それは日本にとっては格別難しいことではないでしょう。
 つまり、現在の日本政府の計画は戦略的なものだというわけです。10年先か15年先か20年先かそれはわかりませんが、いつか核兵器を持つための準備だけはしておくということ。2010年か2015年の時点で日本が核武装したいのなら、いまからその準備をしておかなければなりません。不幸なことに、この考え方はけっこう現実的なものです。日本政府のなかにはそのような発言をくり返す人がいるようですから。ですから私たちは、そのことにきっぱりと反対していかなければなりません。
 もうひとつ、日本がプルトニウムを持つことには別の意味があります。旧ソ連やアメリカがプルトニウムを持っていることと、日本がプルトニウム大国になることとは決定的に違います。日本は現時点では核保有国ではありません。アジア地域で核保有を明言しているのは2カ国です。ですから日本のプルトニウム政策の変更は、非常に大きな意味を持っている。このことを強調しておかなければなりません。
 インドとパキスタンの核武装については、国際会議の場でも何度もとりあげられています。しかしほかのアジア諸国、たとえばタイやフィリピンであっても、10年、15年という先の話を考えて、現在原発を輸入し原子力利用を推進することは戦略的計画であって、潜在的な核保有国になります。つまり日本のプルトニウム利用の推進が、水平的な核拡散状況をつくりだす契機になってしまうことを強調しておきたいと思います。

司会(河田)
 どうもありがとうございました。どうぞ、朴さん。

軍拡の可能性はわずかでも許せない
朴賢緒(韓国)
 高木先生の発言に対して私の意見を述べたいと思います。高木先生は、突き詰めてみれば、プルトニウムそれ自体がいけない。その危険性とか冒涜性とかね、持つことそれ自体いけないといっています。それを利用するとか、エネルギー源とするとかはもちろんのこと、プルトニウム大国化はもってのほかだと。ところが外国から来た人たちはプルトニウム大国化を軍事だという。それに対して、でも軍事で使うのはちょっと確証がないんじゃないか、日本が愚かにもそんなことしますか、いくら国連常任理事国になってもそんな愚かな、馬鹿なことするはずがないという。私もそれを頼みたいんですよ。でも、1930年代のあの大恐慌後、満州侵略から15年戦争が起こったんでしょう。いまの日本がね、昭和が過ぎて平成の日本が、50年前、70年前の日本とそっくりだとは思っていない。あなたたちが平和憲法というでしょ。あれを護る意思があるかないかが問題なんですよ、実は。当面の課題は。
 平和憲法の第9条の第2項なんか、解釈上の問題はいくらでも出てきて、陸上自衛隊を派遣するのなんのと自民党の幹部がいってる。たとえば小沢さんなんかがね。30年前からそれを研究しているでしょ。また、米ソ対立構造がなくなってからアメリカは、パックスアメリカーナを志向してる。でも米国ひとりでは実現できない。ECだ、西太平洋だ、日本だ、とどのような枠ぐみで実現するのかが日本にとって問題になる。中国が先ざきどうなるかわからないこともあって、日本が焦ってる。もう日本帝国じゃないはずの平和日本国が焦っている。そう私の目には見える。
 日本はいま資本を輸出してるでしょ、技術を輸出してるでしょ、商圏確保の声が世界中に鳴り響いてる。米国の利益があるから、西太平洋は米国のものだ。でもマラッカ海峡は日本の生命線だとあなたたち公認してるでしょ。カンボジアなんかでいくら内戦をやってもね、日本の生命線に影響することはないんです。資本主義国日本の、いや資本帝国日本ですよ、その経済力を実質的に保障するのは軍事力です。私もまさか核武装はしないだろうと思ってはいますけれども、隣の国の拡張主義に直面しているんですよ。侵略被害妄想者と日本人に呼ばれても、私たちは構いません。侵略受けて犠牲になったのは私たちなんだ。平和憲法を持っていても、最初は情報戦、そのうち航空自衛隊、海上自衛隊、陸上自衛隊まで派遣しようとしますよ。たとえば商売ができなくなったらどうしますか、日本は。自衛隊を派遣しますよ。皇太子の結婚でお祭り騒ぎなんかしているでしょ。それを見てたらわかります。
 日本人全部がそうじゃない。あなたたちのように、奇特で良心的で進歩的な人々は、いまも昔もいます。私はそういう人々と手をつなげるものと確信する。でもね、70年前、80年前のあのときは、田中義一首相とか近衛文麿首相が愚かだったんですか? 東条英樹が愚かだったんですか? そうじゃない。実質はともあれ、帝国議会で戦争は決められたんだ。個人の愚かさということではないでしょ。
 いまは国益とかを前面に出すのじゃなく、国連の名のもとにしますよ。カンボジアでPKO協力してるでしょ。次にソマリアに行くか、あるいはボリビアに行くか、どうなるかわからない。はてはイラクにいるフセインを標的にするかもしれない。いや私たちのところだって北と南の対立構造にあるのだから、そういう可能性を多分に持ってる。でもそれは私たちの問題だ。民族統一。あなたたちが手を出す問題じゃない。私は予言者ではないですが、歴史が教えてくれます。
 軍拡の面でね、1パーセントの可能性があったら私たちは危険な状況だと決めつけますよ。99パーセントの思想的な安定と民主的な国家でも、1パーセントの危険性があれば納得できません。プルトニウムをなぜ1.7トンも持ってきます? 世論を無視して。いや、高木さんの持論はわかってますよ。でも経済性だけの問題でもない。
 今度の韓国代表団のなかに経済学者の張悠植(チャン・ヨンシク)さんという方が予定されていました。彼はニューヨーク州立大の教授で、経済的な面で見てもプルトニウムはエネルギー源としては成りたたないということを発表することになっていましたが、個人的な都合で来られなかったんです。とにかくいまは経済学者からも、はっきりと否定する意見が出ている。原子物理学とか原子工学の面では、プルトニウム利用はだめだ、危険があまりにも大きいということは周知なんでしょ。それだけに絞って闘ってもいいんじゃないかという意見もある。それはもちろんのことですよ。そういう方法を否定するんじゃない。でも、隣の韓国とかでは、経済的な問題プラスアルファの危機感を持っている。それはしょうがない、こりゃ運命的なもんだ。わかりますか? たとえ1パーセントの軍備拡張の可能性であっても、私たちは過去の事実を思いだしてね、許せないと唱えますよ。わかりましたか?
 それは承知してもらいたい。(拍手)

司会(河田)
 どうもありがとうございました。高木さんご意見ありますか?

まず平和利用という幻想を剥いでいくこと
高木仁三郎
 私はさっきもいったように、たとえば韓国の人が、あるいはほかのアジアの人が、あるいは日本人でも、日本がいずれ核武装するんではないかと警戒心を持つ、また、特にアジアの人たちがそのことに大きな声をあげることについて、何も反対ではない。それはたいへん大事なことだと思っています。
 それはそれとして、なおかつ私がさっきいったことは、プルトニウムの軍事的な可能性は無視していいといったのではなくて、そういう問題だけに絞ってしまわないでほしいといったんです。で、私たちがいまの課題にしたいのは、具体的には広瀬さんからも話が出ましたけれど、目の前にあるもんじゅが秋にも運転を開始するかもしれない。いまのような形でもんじゅが運転開始を強行すれば、悲劇的な大事故が起こる可能性は高いと思うんです。しかし、そういうことについて、ほとんどの人が知らない。そういう基本的なことを明らかにしていくことが特に日本の場合に大切なことだと、そのことを私はいったんです。
 私が特にいいたいのは、たとえば日本のなかでプルトニウムの軍事的側面だけに議論を絞ってしまうと、それは司会の河田さんがさっきおっしゃたみたいに、日本の歴史的な議論のなかでは弱いものになってしまう。つまり日本政府は「いや、軍事利用ではないんだ」とさかんに主張していますから、その結果として、軍事利用でないならいいんだという議論になってしまいかねない。それでは困るんです。軍事利用はもちろん困るけれども、平和利用ということ自体がまやかしですから。プルトニウムというようなものにですね、これは戦争というようなことは別にして、平和的な使い方なんていっさいありえないんだということをですね、多くの人たちに明らかにしていく。
 そこから何かしらエネルギーが出るんではないかとか、ある程度プラスの利用のしかたがありうるんではないかといった、まだ広く多くの人にある幻想を剥いでいくことが必要なんです。だから軍事利用という問題に議論を絞ってしまわないほうがいい、それが私の意見です。
 軍事利用への警戒ということも大いに持たなくてはならない。そのことはおっしゃるとおりでありまして、私はいまの議論に何ら直接反対するものではありません。

朴賢緒(韓国)
 先生ありがとう。よくわかりました。だからね、あなたもその見方でもっと頑張ってください。私も応援します。ただ、軍事的に絞ったらフォーカスがずれるとおっしゃる。それは日本国内の問題でしょう。アジアの全体会議だから、私は軍事利用面を強調したわけですけれども、対立見解ではありません。どうか頑張ってください。ありがとう。

司会(河田)
 これまでの議論を聞いて非常に強く感じますのは、やはり、日本人そのものが問われていることだと思うんですね。つまり日本人がこれまでやってきたことの延長で、軍事利用というものが疑われている。だからそれを日本人がどう受けとめて、どうするのかということが問われているにもかかわらず、われわれ日本人は平和利用の幻想にまだ巻き込まれている。そういうところが問題なんだと強く指摘されていると思います。それをわれわれが、われわれ自身の問題として、内部から突き崩していく必要があるということがだんだん見えてきたと思うんですね。たいへんいい議論になってきたと思うんですが、この延長上でどなたかご発言お願いします。

郵便貯金はやめよう
会場発言(東京・男性)
 グループKIKIの田中といいます。プルトニウム問題も含めて、日本がアジア全土に進出しているのはご承知のことだと思うんですが、改めて発言したいと思います。つい先日、日本が、海外援助と称して1200億ドルをむこう5年間の予算として出すという話がありました。1200億ドルというと、日本円に直すとまあ15兆円近くになると思います。
 その予算の中身については、ひとつは当然のことながら政府開発援助=ODAです。ふたつめが日本輸出入銀行を使っての融資。で、3番目は貿易保険という形です。まあ、そのほかにもあるんですが、その3つを重点項目として海外に援助する。特にアジア各国に援助するということになるんでしょうけど。で、このお金の使われ方をもう1回見てみると、ODAの半分以上は無償援助ではありません。いわゆる円借款といいまして、利子をつけて相手に貸すわけですが、これが5割から6割近くも占めています。その円借款の原資はどこから出ているのかというと、大蔵省の財政投融資のなかから出ています。日本輸出入銀行の資金はどうであろうか。これもやはり財政投融資のなかから出ている。貿易保険はというと、これも財政投融資のなかから出ている。
 私たちが普通に考えれば、政府開発援助も含めて対外的に貸す場合にはですね、一般会計から出るんじゃないか、国家の予算から出るんじゃないかと思います。私もそう思ってましたけど、実は一般会計のなかからではなく、財政投融資のなかから出ているのです。じゃあ財政投融資とは何かといいますと、いわゆる公的資金といわれますが、これは郵便貯金がおもな原資となっています。各種年金とか簡易保険とかも原資の一部ですが、まあ圧倒的に郵便貯金が多いわけです。さてそうすると、郵便貯金なり何なりというのは実は私たちのいちばん身近な貯蓄といいますか、貯金なわけですが、これが全世界を駆け巡っているという事実を確認しておきたいと思います。
 たとえば原発のことで見てみると、ウランの採掘から、フランスに対する再処理の委託も含めてですね、実はこれらは日本輸出入銀行が融資しています。日本輸出入銀行とは先ほどいいましたように、財政投融資のなかからお金が出ている。それから、先ほどもんじゅの話も出ましたが、もんじゅも1988年から財政投融資の融資案件になっております。このことでもわかるように、財政投融資は様々な分野での資金源となり、原発も含めて融資されています。したがって私たちの運動のひとつとして、三菱重工などを責めていくことも重要ですが、身近な貯蓄であるこの郵便貯金が、原発も含めて世界の環境破壊に多大な負の貢献をしているという事実を認識することも大切です。
 さきほど朴先生もいわれた日本の侵略の問題をその認識から見てみると、実は当時、日本は戦費に国家の一般会計の8倍のお金を使ってました。そのお金がどこから出てきたかというと、これも郵便貯金です。当時の郵便貯金から大部分と、国債からもまかなって戦争に突入していったのです。だから極端にいえば、もしわれわれ日本人が郵便貯金をやめていれば、日本はかつてのような侵略戦争をできなかった。純粋にお金の面だけですけれども、そういう資金運用体制にあったのです。
 それと同じような構造がいまも日本にあって、呼び名は変わりましたが、大蔵省の資金として運用されている。つまり大蔵省のほうから、ODAの問題も含めて、全世界にお金が駆け巡って環境を破壊している。たとえばインドネシアのムリア原発にしても、その事前調査を行なっているニュージェック(NEWJEC)社の調査費用の半分は、日本輸出入銀行から出されようとしている。このことに明らかなように、とにかく戦前から戦後にいたるまで、財政投融資というやつが妖怪のようにあらわれて、世界の人々、それも特にアジアの人々を喰いものにしているということなんです。
 したがって私たちは、もっとも身近な足元の、財政投融資の原資である郵便貯金をなんとかしなければいけない。具体的には、「郵便貯金をやめておろしましょう」ということなんです。この貯金の99%が個人の預金ですから、これがまずいということがわかって、郵便貯金ひきおろし運動が全国的にまき起これば、日本は原発はおろかプルトニウムも含めて、こういう政策が金の面からできなくなっていく。また、ODAの資金もなくなるということなんです。そこで、私たちのグループは「郵便貯金はやめよう!」と、いま提起しております。足元からまずやってみようじゃないか、ということを提案したいと思います。

司会(河田)
 どうもありがとうございました。いま非常に具体的な提案が出ましたけれども、ほかにご意見ある方はどうぞ。

中国参加の働きかけを
会場発言(佐賀・男性)
 九州の佐賀からまいりました細川ともうします。ここでふたつのことを指摘したいと思います。いまの輸出入銀行に関してですが、チェコスロバキアのテメリン原発。これは大きな技術的な問題を抱え、環境問題も抱えている原発ですが、そこの資金援助にアメリカの輸出入銀行の投資が現在行なわれています。ヨーロッパでは最近、環境保護団体が中心になって、その投資をやめさせる運動が始まっています。それをまず情報としてお伝えしたいと思います。
 ふたつめは、先ほどのプルトニウムの核利用、軍事利用ということに話が戻るんですが、昨日この会場に来まして非常に強く思ったことで、この場に中国からの人が来ていない、われわれが招くことができなかったことが、将来のこの運動の前進を考えるうえで、ものすごく弱みになると思いました。アジアのいわば核の動向を握っているのは、もちろん日本かもしれない。けれども、核兵器という意味では、現時点では中国の動向が鍵だと思うんです。ですからアジアを非核化していくという場合に、中国の動き抜きに何を議論しても虚しいということがあると思います。そして、今後この会議をあちこちで続けていくときに、何らかの形で中国からの声そして中国への働きかけを、おもなプログラムのひとつとして入れておく必要があるということを指摘したいと思います。
 もちろん中国の参加は、私がいうまでもなく多くの方がわかっていると思うんですが、非常に難しい問題があります。それは国家としての、つまり政府としての中国と話をするのか、民衆としての中国の人と話をするのかということで、いろんな意味で一致しないことです。たとえばチベットにおける核廃棄物の問題や、西中国の核兵器実験場での被曝者問題などを考えた場合、これらの問題をとりあげていったら、中国政府は議論に乗ってこないことが現時点では明らかなんですね。それをどういう形で崩していくか。すごく難しいということはわかりますが、将来の反核アジアフォーラムの、おそらく最大の課題として意識しておく必要があると思います。

司会(河田)
 どうもありがとうございました。いまの中国の問題に関しては、日本実行委員会でもいろいろ議論されました。しかし現実には、中国の人を招くことは実現しませんでした。というのは、いくつかの理由がございます。ひとつには具体的なチャンネルがなかったこと。もうひとつは、国家として強力に原子力を推進しようとしている国においては、反核を目的として海外に出ること自体が、弾圧の対象になるということがあります。これは中国だけではなく、たとえばインドネシアの人に関しても非常に厳しい議論がありましたし、現実に困難を乗り越えて参加してくださっています。それをどうわれわれが乗り越えていくのかは、ひとつ大きな宿題だと思います。どうもありがとうございました。さて、次にご発言くださる方、どうぞ。

いのちの風はアジアから



会場発言(神奈川・男性)
 神奈川県から来ました岡本ともうします。いままでの議論には出ていなかった新しい視点を提供して、みなさまの考えをお聞きしたいと思います。それは、私たちの反核運動の原点のひとつに、新しい価値観の意識化が必要ではないか、という問題提起です。
 このアジアフォーラムのサブタイトルというんでしょうか、あちらに「いのちの風はアジアから」とかかげられています。いのちの風、という言葉が使われていることを、私は非常に好感を持って受けとめています。つまり日本のプルトニウム大国化は、西欧、欧米の近代機械文明のもっとも醜悪な終局点ではないかと思うからです。いのちの破壊を恐れない機械文明に対して、私たちは新しい価値観というよりはむしろ広くアジアに昔からあった伝統的な知恵、精神文明をもう一度自覚することで、存在の原点というものに価値を置くことを考えればいいのではないか。特に私たち日本人は、自分の文化に対しての自信を失って、日本人としてのアイデンティティーをかなり喪失しているのではないかと思います。
 そういう意味でアジアから来られた、たとえばインドの代表の方がガンジーの名前を出されましたが、この点について日本以外のゲストの方々のお気持ちをお聞かせいただければ幸いです。

司会(河田)
 ありがとうございました。プルトニウムの問題から、プルトニウムのない、あるいは核のない文明、社会をどうつくるのか、という話に議論が移ってきましたが、この点に関して特に海外からの参加者のご意見があればうかがいたいんですが。

北朝鮮の核疑惑について
南相旻(韓国)
 韓国から来ました南相旻(ナム・サンミン)といいます。私はプルトニウムの問題を考えると同時に、北朝鮮の核疑惑について発言したいと思います。
 アメリカと日本においては、特に北朝鮮の核兵器について多くの議論がなされています。もちろん核兵器の問題については誰もが反対をしますし、私も北の核の問題について若干の疑惑を感じることはあります。そのような立場にたちながらも、金日成(キム・イルソン)政権が様々に、たとえば非常に問題の多い政権であるとか、道徳性を欠如しているとか、いわれていますが、そういうことではないとも感じます。
 1957年以降、韓国にはアメリカの戦術核兵器が1000発近く搬入され続けてきました。そしていま、日本がプルトニウム大国になろうとしています。このような状況にあって、北のことばかりが議論されるあり方が問題です。私は北の問題を議論する前に、アメリカの核配置の問題、そして日本のプルトニウムの問題が、本当にもう一度しっかりと討議されなければならないと思います。アメリカは長く、核兵器の存在を否定も肯定もしないという政策をとり続けてきながらも昨年、韓国から核を撤収したと発表しました。そしてそれを受けた盧泰愚(ノ・テウ)政権は韓国の非核化宣言として、韓国には核がないといいました。ところが最近になって日本のプルトニウム大国化の問題、そして中国の核兵器の問題という現実を前に、韓国の保守陣営はいまや韓国も核武装しなければならないといい始めています。
 日本そしてアメリカで、多くの憂慮する声が北の核疑惑について出されていますが、よくよく考えてみれば、現実的に多くのプルトニウムを抱えている日本、アメリカそして韓国が持つ量や内容に比べると、北の持つ核の規模やその中身は研究用というあまりにもちっぽけなものです。それにもかかわらず、いまのように北朝鮮の核の状況が非常に誇大化されて宣伝されるあり方に対しては、何らかの意図を感じざるをえません。
 もちろん北朝鮮が核を保有することには反対です。しかし疑惑の段階であれこれいう前に、北朝鮮が核武装を実現できないようにするには、まずアメリカの核政策が直視され、その変化がうながされなければなりません。そして、日本のプルトニウム政策が根本的に変えられ、新たな動きを見せる軍国主義のあり方についても議論されなければならないと思います。
 原子力発電所については、地域の問題でも国家の問題でもない、いまや世界の問題になっています。そういう意味でこれを阻止するために、私たちが本当に民衆の連帯という行動を基礎にしながら脱原子力の新しい世界をつくっていかなければならないと思います。ありがとうございました。

司会(河田)
 どうぞジャヤバランさん。

ジャヤバラン(マレーシア)
 その脱原子力社会実現のための今後の闘い方ということについては、私は高木先生の意見に同意します。つまり、日本政府がくり返し表明している「プルトニウムの平和利用」そのものに反対していくということです。確かに核武装化あるいはその可能性という問題はありますし、そのことに関しては私も、自分の報告のなかで触れました。しかし、日本の人々あるいはアジア各国の人々に広く呼びかけていく、運動を広げていくという場合、平和利用に反対していくことが戦術的に重要だと思います。
 プルトニウムだけではなく、原発推進や原発輸出にも反対していく、その線であればこのフォーラムの参加者以外の日本の人々にも、受け入れられるものとなるのではないでしょうか。平和利用の美名のもとに核拡散が進んでいく、それを阻止しましょう。それが私の提案です。

司会(河田)
 ありがとうございました。どうぞ。

日本が核武装する理由
会場発言(神奈川・男性)
 神奈川県の相模原市から来ました吉田ともうします。地域で小さな反核運動をやっています。昨日の討論のなかで、プルトニウムの平和利用というものが、ほとんどこれは、虚偽のイデオロギー、デマゴギーであることがはっきりしてきたと思うんです。つまり経済的にたちゆかないし、技術的にも破産寸前であり、これを強行することがとんでもない事態をひき起こすことなどが、非常に鮮明になってきている。にもかかわらず、それでも推進するその理由の最後に残る可能性として核武装しかないと、すでに政府筋の人たちが、そういうことを提案していることまで明らかにされてきたと思います。
 で、いま日本が核武装する理由を考えると、やはり、湾岸戦争でしょう。アメリカが、その生命線である石油を守るために暴力的に軍事出動をしたイラクの湾岸戦争というのは、いわばヤルタ体制の崩壊だった。このやり方は、戦前の日本軍、ならびにナチスドイツ、それからイタリア、これらの国々がベルサイユ体制に対して、新しい国際秩序をスローガンにして、侵略戦争を展開していったのとほぼ同じです。日本軍においては、満州が日本の生命線だということで、東亜新秩序というスローガンをたて、侵略していった。それがさらに、大東亜共栄圏という発想になって、中国、アジア全域を経済的な支配、軍事的な支配にもっていくことに発展していったと思います。
 湾岸戦争以後、国連のなかでソ連、中国が実質的に破産すると、同時平行的にアメリカがソ連を屈伏させる形で、新しい秩序をつくり始めた。つまり、ソ連を中心とした、社会主義のテリトリーであった部分を、侵略によって再編成していくことだと思います。これがいま国連の名のもとに、実質的には先進諸国によって行なわれるPKO派兵であり、軍事派遣が行なわれている東南アジアやアフリカ、あるいは旧ユーゴスラビアなどでは、新しい支配層のテリトリー合戦の段階に入ったんではないかと、私は考えています。
 それから、一方の状況として、日本がすでに侵略体制に入ったということもあると思います。そのときにやはり、アメリカが戦後やったように、核武装が影響力を広げる際に問題になる。
 かつての広島、長崎への原爆の投下は、日本の無差別爆撃の仕返しみたいな形で行なわれました。そのときに日本の政府は、これは人類に対する犯罪行為である、二度とするなと、アメリカに抗議するわけです。でも無視されます。それは、無視してもいいような世論形成がなされていたからです。そもそも日本軍がやっていたことを、731部隊などを例にとって考えてみると、とても抗議する資格があるとは思えない。広島、長崎の原爆投下の被爆者を解剖していろいろ調べ、解剖の成果をすべてアメリカ軍に提供して、それとひきかえに天皇制の延命をはかる。アメリカの狙う戦後支配の切り札としての核兵器投下の成果を、具体的な資料をもってアメリカに提出する。これは軍事的に極めて高度な、重要な意味をもっていたわけです。つまり、その情報はソ連には渡したくないと、アメリカは考えた。アメリカだけが核兵器の人体実験の成果を独占し、それをふまえて核兵器開発のさらなる踏み台にしていく、そういうことに日本の政府と天皇制そのものが加担したわけです。
 戦後の東京裁判というのは、東条以下、軍部の暴走という形でいっさいの責任を軍部に転嫁していますが、実際残った天皇制、あるいは当時の立案製作者、この人たちはそのまま温存されたわけです。この人たちがまさに、核の平和利用という話に飛びついて、エネルギー政策と称して国民をたぶらかしてきた。それが、アメリカの核に頼って新植民地政策のなかで利権をむさぼることも、もう限界に達したので、日本独自の核武装ということが現実的なスローガンになってきた。私はそういうふうに思います。

司会(河田)
 どうもありがとうございました。どうぞ。

ふたつの合意を
会場発言(東京・男性)
 三多摩の日野に住んでます、鷲尾といいます。スタッフのひとりとして動いていますが、いまは個人の資格で発言したいと思います。
 各国の方々からのスピーチでも明らかになったように、日本が世界のなかで特別な平和国家だというのはやはり、ひとり日本人だけがそう思っているにすぎない。それは間違いだと認識しなければいけない、と私は思います。日本の経済的な拡張政策が、それと軌を一にする日本の軍事的な力と結びつくことを否定できないと思います。これについては、この会場にいるみなさんのなかで、ほぼ合意ができるのではないかと思います。ただその合意のうえで、今日の会議の限界として思うことについて、お話をしたいと思います。
 確かに日本の経済的な拡張のために軍事的な力を持つことが必要だと日本政府が考えていることは間違いないのですが、それが核兵器でなければならないと考えているのかどうか確証するだけの材料を、私たちはいまは持っていません。そして、今日のこの会議に軍事問題の専門家、つまり東アジアの軍事情勢を分析して、日本の軍事政策について専門的に分析をするというメンバーを、日本側のスピーカーとして用意できなかったわけです。そのために、日本の経済的な膨張主義と軌を一にした軍事力の強化が、通常兵器ではなくて核兵器でなければならないという必然性について、必ずしも私たちは十分に論証できていません。通常兵器で間に合うのであれば核兵器をもつ必要はないという判断を、もしかしたら日本政府はするかもしれません。
 そのことを前提として、結論めいた話をふたつします。ひとつは、朴賢緒さんがいわれたように、1パーセントでも核武装の可能性があるのならば、それについて徹底的に警戒をしなければならないということ。このことについては、今日みんなで合意ができるんじゃないかと思います。それと同時にもうひとつ、核武装されなければいいというのではなく、平和利用であっても核物質、特にプルトニウムは使うべきではないということについても、今日、合意ができるのではないかと思います。どうでしょう。私の発言は以上です。

司会(河田)
 はい、ありがとう。どうぞ。

情報の公開を徹底的に求めていく
会場発言(東京・男性)
 私もスタッフのひとりの小林ともうします。日本のプルトニウム大国化をとめようということで、今日、ずっと話が続いてきています。それについての様々なアプローチのしかた、たとえば広瀬さんのおっしゃるような、企業を責めるという考え方もあると思います。さらに核武装の問題では、どう日本政府を責めるのか、そういう点について少し話したい。そしてみなさんの合意がいただければありがたいと思うのです。
 まず第1に、核武装はマンハッタン計画以来、たえず極秘裡に進められてきたということを念頭に置かなければいけないと思います。もちろん、イギリスでもフランスでもそうですし、中国もそうだったと思うのです。そういうなかで、核武装はおそらく日本においても、極秘裡に行なわれるだろう。将来、核武装するとすれば、そういうことになるだろうと思うのです。
 ならば、われわれとしてはどういう考え方でこれに臨むのか。残念ながら、プルトニウムをここで追い出せないならば、その問題で、ひとつアプローチもしなければならない。であれば、やはり情報の公開を徹底的に求めよう。原子力三原則のなかで、自主、民主、公開、というのがあります。特にこの公開の原則、これを徹底的に使って、情報公開を迫っていくことです。
 しかしながら、日本は逆行しています。去年の4月17日に、科学技術庁は一片の通知でもって、さらに情報の非公開を進めました。これは法律でも何でもない、一片の通知です。それによってさらに核燃料輸送の実態をわからなくさせたのです。しかも今後、核防護などを理由にして、その非公開性を強めてくるのではないか。だからこそ、やはりわれわれとしては、情報公開を徹底的に追求していく。原子力三原則に民主、公開と、特に公開があるということは民主でもあるということですから、その点を追求しなければならないと思うのです。

反核の法制化運動を
 それから、日本の兵器について、軍備についてどう考えるかという、鷲尾さんの提起された問題です。これに対しては、先ほど韓国の方からも、憲法を守ることが重要なんだという話がありました。憲法9条の戦争放棄の部分を、日本の政府はいまどう考えているかということですが、内閣法制局の解釈としては明らかに、日本の自衛権は認めるんだといってるわけです。自衛権のうち、さらに通常兵器の自衛権だけではなくて、核兵器での自衛権も法制的には認めるんだ、というふうにもいってるわけです。
 この解釈にはやはり重大な問題があると思います。日本政府に、この解釈は間違いである、9条は9条、絶対守れとわれわれが追求する。同時に非核三原則の法制化も、きっちり求めていかなければならない。非核三原則というのは、核兵器をつくらず、持たず、持ちこませずです。日本は、非核三原則をいちおう国是としてはいますが、実際には骨抜きになっている。だから法制化させる。そういう具体的なプロセスを求めていく。これが重要ではないかと思います。
 以上が若干の提案というか、すでに運動化されている部分ももちろんありますが、このふたつは合意を得られるものと思います。そして、最後にみなさんに訴えたいのは、今年の予算のなかで、リサイクル機器施設の予算がついたことです。
 いまちょっと記憶が薄れてますが、確か二百数十億円ついたと思うんです。しかしこれについて、国会では何の議論もありませんでした。資料をとり寄せたのですが、内容は非常にずさんなものです。リサイクル機器施設とはなにかとよく考えてみると、これは、高速増殖炉の使用済み燃料の再処理施設であることがはっきりしてきました。そうなるとブランケット燃料の処理もやるのではないか。ブランケット燃料を処理すると、高純度のプルトニウムがとり出せて、中距離核弾頭の材料になると、槌田さんがいっています。そうなると、戦術核の材料になるという重要な問題なのですが、国会で論議もせずに予算がついています。そういう日本の現状について、みなさんとともに憂いつつ、こういう実態をなくしていくことを、ともに頑張っていきたいと思います。

司会(河田)
 ありがとうございました。これまでの議論のなかで、様々な分析、様々な解釈が行なわれ、問題の所在がかなりはっきりしてきたと思います。ひとつは日本のプルトニウム利用に対して、われわれ日本人の受けとめ方と海外での受けとめ方に、かなりギャップがあることを認識すべきだということです。そのうえで、われわれはどうしたらいいのか、ということを考えなければいけないと思うんです。
 その点に関して、先ほど韓国の南さんからのご意見がありましたが、たとえば北朝鮮のプルトニウムに関しては、国際的にも非常にたたかれている。しかし、その何百倍にもおよぶプルトニウムを持つ日本は、なぜ問題にされないのか、ということがあると思うんです。そこをわれわれ日本人がきちっと問題にする。そして、海外でもそれを問題にすることが、ひとつ大きなテーマではないかと思うんです。
 残念ながら、時間があと20分とちょっとしかございません。ですから、できるだけ焦点を合わせたご発言をいただきたいと思います。どなたかご意見をお願いします。どうぞ。

日本の核武装阻止に重点を置いた運動を
金範泰(韓国)
 韓国から来ました金範泰(キム・ボンテ)です。いままでの議論のなかには、いろいろな反対意見もあると思いますが、それについて私から一言だけ意見をもうしあげたいと思います。日本とほかのアジア諸国との関係に比べて、日本と韓国の場合には、いろいろ異なった特徴があると思います。まずそのことを、やはりいままでの両国間の歴史をしっかりふり返って見ることによって、いままでの日本とアジアとの関係についても同時に考えてみたいと思います。
 韓国と日本とはいろんな意味で切っても切れない関係、宿命的な関係であります。20世紀の初め、韓国をはじめとしたアジアのほとんどすべての民衆が、日本軍国主義の軍靴に踏みにじられ、痛い経験を抱きました。そして、今日においても過去のこの間違いを正直に謝罪し、応分の賠償をすることはおろか、新帝国主義による核武装で大東亜共栄圏の形成と世界秩序を夢見るという動きを見せていること自体が、日本人の本性を疑わせるにいたっています。また、わが民族最大の悲劇であった朝鮮戦争は、日本の36年間の支配がもたらした南北分断の結果でありました。そして、その戦争が日本を経済大国にする起爆剤になったのです。こうした事実、韓国と日本が置かれている姿をみなさんは知っていると思います。
 このように日本が、アメリカとともに分断固定化の主犯であるという厳然たる現実を否定することはできません。その日本が、軍産複合体戦略の一環として得た原子力産業は、帝国主義のアメリカからひき継いだ多国籍企業の典型でもあります。このように反民衆的であり反生命的である原子力産業は、アジアの民衆の生と何の関係もない支配階層の占有物であることを、良心的な日本の人々は認識しなければならないと思います。
 私たちは北朝鮮のNPT脱退留保決定に対しては、大いに歓迎しています。しかし、北朝鮮の核査察問題だけが国際問題として飛火することについては、日本の核武装の可能性には一貫して沈黙しながら、むしろプルトニウムの備蓄を承認するアメリカこそが指弾されて当然だと考えます。みなさんはどのようにお考えでしょうか?
 38年という長い歳月を自民党政権に託してきた日本が、衆議院解散とともに少しづつ変化をとげようとしていますが、政権を交代したところで基層民衆の質的な変化は決して達成されないのではないかと思えます。つまり私たちは、反核のスローガンだけでは、核武装をもくろむ新保守主義集団に対抗し、それに勝つことができないということを、今回の反核アジアフォーラムを通じて切実に感じました。
 このような観点で日本のプルトニウムの問題を見てみると、各国が置かれている状況に自ら積極的に対処することも重要ですが、もっと重要なことは恐竜にも似た日本の核武装への陰謀を潰すことです。そして、その陰謀を潰すためには、常設された組織の連帯のなかで具体的に対応し、各国がお互いに協力できることが必要であり、その協力態勢実現のために、良心的で進歩的な日本人の積極的な運動があるべきだと考えます。
 いまアジアのみならず、全世界の民衆が反核平和のためにともに闘うことができるよう、今回のアジアフォーラムを契機にして集まった私たちの本当の姿が、生きる姿が全世界の民衆に伝わることを心から期待します。

司会(河田)
 ありがとうございました。最後にスチュワート・ケンプさんどうぞ。

各国が原子力技術に対する支出を調査しよう
スチュワート・ケンプ(英国)
 再度の発言の機会をいただきありがとうございます。ご存知のとおり、私はアジア地域からではなく、英国から来ています。そして、今朝の議論について精一杯耳を傾けてきました。そこで私なりに、ふたつだけ意見を述べたいと思います。これらふたつは互いに密接な関係にあります。私の意見がこの会議にとって、意義あるものになりましたら幸いです。
 まず最初に、昨日私は原発にとってかわりうるものは何か、持続可能な繁栄を続けていくために、原子力をほかのエネルギー源にかえることができるのかどうか、あるいはどうやってそれをやるのか、ということについてもうしあげました。
 そして今日は、アジア地域での核拡散の脅威について多くの指摘がありました。これらふたつの問題は、エネルギー需要の問題に目を向けることで対応策が提起できます。この会議の代表たちが、自分たちの国で代替エネルギー開発を実行し、奨励することでその可能性は現実のものになると思います。
 私は、それぞれ異なった国から来た代表者が、自分の政府の原子力技術に対する支出を調べ、それが軍事によって正当化されていないかどうかと結びつけて見ることが重要だと思います。なぜなら、原子力を推進するほとんどの国の支出は、軍事に結びついていると思うからです。そして、これらの調査から、その国のエネルギー需要の中身も知ることができると思います。これら核開発の中身を数字で分析することは、そう難しくはないでしょう。
 また、原子力技術に対する支出を計算し、その国のエネルギー需要を計算しておくことで、持っている資源をどのように使うべきかを知ることができるし、再生可能なエネルギーの開発や、エネルギーの有効利用や、エネルギーを貯蔵する方法についても、解決の糸口が得られると思います。たとえもし、原子力エネルギーをこれからも選択しなければならないとしても、これらのことが実施され、論議されることは、ぜひとも必要であると思います。
 短い期間ですが日本に滞在して、非常に多くの人が、将来のエネルギー需要のためには原子力の恩恵にあずかる以外に道がない、と信じているのを目のあたりにしました。しかし、この会議に来ている多くの人は、原子力の平和利用という論議は核兵器技術の開発の口実だと信じています。したがって、エネルギー需要をみたすためには原子力技術を利用する以外に道はないという主張を、最初に論破しなければなりません。それは十分可能なはずです。
 軍事のための原子力計画がだれのためのものであるかは明らかです。だからこそ、原子力エネルギーの必要性の論議がとても重要なのです。たとえばもし、日本が原発を推進することに説得力ある理由を持たないとすれば、将来の目的もはっきりしてきます。つまり、それは軍事利用に関係する可能性が大きいということになります。ですから私のこのコメントを観念的すぎると思わないでください。
 この会議ではこうした問題を提起し、将来のエネルギー需要のためには原子力技術に頼らざるを得ない、という推進側の論法そのものを論議すべきです。もしこの点についての検討がすすめば、原子力技術の軍事利用についての議論ももっとはっきりとしてくるでしょう。

司会(河田)
 どうもありがとうございました。もう時間がございません。それで、今日の午前中の議論はとりあえずこれで打ち切りたいと思います。

  
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