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第一回 日本
東京 ノーニュークス・アジア会議

各国報告 タイ



原発にかわる
私たちの代案
どんな開発、
社会を望むのか



ウィトゥーン・パムポンサーチャロン
タイ、環境回復プロジェクト
Witoon


司会(コラソン)
 それでは各国報告を再開します。環境問題の市民グループを率いているタイの代表からです。15年にわたるダム建設反対、森林伐採反対の闘いで大きな成果をあげている、ウィトゥーン氏に話をしていただきます。ではウィトゥーンさん、どうぞ。

ウィトゥーン(タイ)  ご紹介、どうもありがとう。そしてみなさんこんにちは。
 私の国タイには、現在のところまだ原発はありません。しかし一方で、それを持ちたいという潜在的な欲求も強く、私たちはまさに「心理戦」のまっただなかにいます。これまでのダム反対キャンペーンは、成果をあげており、この5年間に私たちは4つのダム建設を中止させました。いま提案されている6基の原発建設計画に対する闘いも、同じように進めようと考えています。ですから反原発運動の経験を話すことはできませんが、逆にみなさんからたくさんのことを得たいと思っています。
 そこで今日は、タイのエネルギー、電力事情と、私たちが討議してきたタイにおける今後の反原発キャンペーンと環境保護運動について、いくつかのアイデアをお話したいと思います。最初にタイの電力事情に関するデータを提示しましょう。

タイの電力事情と将来の予測
 タイ電力局(EGAT)は、2006年から2014年にかけて6基の原子炉を導入する計画を持っています。1990年時点のデータを見てみましょう。

1990年の電力供給源
水力 224.9万キロワット
天然ガスとガスタービン 120.0万キロワット
リグナイトと石油火力 430.6万キロワット

 タイ電力局の予測では1992年には902.9万キロワットが、1997年には1319万キロワットの電力が必要になるとしています。これは5年間、需要が8.4%ずつ伸びるという予測です。その後の5年間の伸び率を年6.9%とすると、2002年には1784.2万キロワット必要になります。2002年の需要を満たすためには新たな発電所が必要であり、電力局は次の計画を公表しています。

新規建設計画
水力 157.2万キロワット
天然ガスと石油火力 60.0万キロワット
ガスタービン 215.5万キロワット
リグナイト 360.0万キロワット
輸入石炭(オーストラリア産) 380.0万キロワット

 これには原子力が入っていません。しかし供給源のパーセンテージを見ていきますと、1992年と2002年とでは大きな違いがあります。

1992年 2002年
水力 9.9% 6.2%
ガスタービン 39.6% 25.3%
石油 26.5% 20.0%
リグナイト 22.5% 31.5%
石炭 16.2%
 石炭発電は現在はなく、1996年から導入されます。これがタイの電力供給計画です。
 次に需要の方を見てみましょう。総電力量の50%がバンコクおよびその周辺の工業地域で消費されています。そして25%が商業用の需要です。これもバンコク中心ですから、結局75%の需要がバンコクに集中しているといえます。残り25%が家庭用です。
 この構造を見ると、なぜタイでダム反対キャンペーンがあれほど強力だったかがわかります。ダムは何千人もの人々をその土地から追いだし、熱帯林を消失させ、その地域の多くの人々に被害をもたらします。しかもそのダムによって苦しみを受ける民衆にとって、電気は何の恩恵も与えてくれない。それがダム反対キャンペーンが人々に強く支持された理由です。
 しかし政府の見方は違います。現在の供給量のままでやっていくことは不可能なうえ、ダム反対キャンペーンの結果、何か新しいエネルギー源が必要になった。環境問題によってダム計画を中止したのだから、原発という選択肢を選んで何の問題があるのか。そもそも原発はクリーンなのだから‥‥‥と、これが政府の論理です。そしてこれこそが私のいうところの「心理戦」なのです。

原発にかわる私たちの代案
 私たちはタイの電力需要を満たすための解決策、代案を示そうとしています。タイ政府がこの課題に対してどれだけの関心を示しているのかが問題ですが、策はあるのです。まず、電力システムの効率化に目を向けなければなりません。電力局は需要抑制計画(DSM)に積極的ではなく、10年間に22.5万キロワットしか需要の抑制はできないと試算しています。これは881.3万キロワットの需要増加に対してたったの2.5%にしかならず、エネルギーの効率化の効果はほとんどありません。
 しかし私たちの調査結果は違います。システム全体で省エネルギー化をはかり、政府が本格的にこれらの施策にとりくめば、10年間で少なくとも342.1万キロワットが節約できます。これでも控え目な数字で、送電線からのロスを減らし、工場や商店から旧式で効率の悪い機械を減らすことで可能になるのです。日本では送電線のロスは7%から8%です。しかしタイでは20%近いのですから、それを10%まで減らすだけで、莫大な電力を得ることができるのです。
 もうひとつ見過ごせないのは、配電システムです。現在、電力局は電力供給網を独占しており、電力局のみが発電を認可されています。このため配電網に融通性がなく、無駄が生じています。これを改善するだけで、少なくとも150万キロワットが節約できます。しかし彼らは何もしません。独占体制がその原因です。
 将来の需要予測において、台湾や韓国からの工場進出は大きなウェートを占めています。タイ政府はこれを歓迎していますが、工場施設は莫大なエネルギーを消費します。ですからここでもエネルギー効率の考え方は重要であり、もし単位面積あたりの電力消費量が大きい工場の進出に制限をかけるような正しい政策がとられたなら、政府の予測したような需要見通しにはならないのです。
 私たちの試算によると、先ほど述べた需要抑制政策により340万キロワット以上の節約が可能ですが、それは10年先の政府需要予測の35%にもあたるのです。しかも、ダムなどを建設するよりずっと安価にこれだけの効果が得られるのですから、これを始めない手はありません。しかし電力局は始めようとはしない。彼らも普通の企業と同様、もっと多くのダムをつくり、需要を喚起し、もっと電力を売りたいのです。それが彼らの利益なのですから、彼らに需要抑制策を期待しても仕方がないのです。

どんな開発、どんな社会を望むのか
 さらに別の問題もあります。いくら電力局がダムをつくりたくても、タイ国内ではほとんど不可能です。しかし将来の電力供給源は確保しなければならない。それで彼らがいま何をしているのかというと、近隣諸国に目をつけているのです。ミャンマーのサロウィーン・ダムや、メコン川のメコンリバーダム、ラオスの水力資源などです。これらは結局、ダム開発が抱える問題を近隣諸国に押しつけるということです。
 さて、ダムもイヤ、原発もいらない、でもどちらもなしで、どうやっていくのか。これはジレンマです。もしエネルギー効率を向上させることに成功しても、私たち自身が新興工業国路線を望むのなら、将来、増大する一方の電力需要に十分対応できるとは思えません。したがってこの問題について語るなら、私たちが望む経済開発とはどのようなものであるのかも見ていかなければなりません。
 とにかく最初にやらなければならないのは、政府に対して省エネルギー政策を要求することです。少なくとも340万キロワットの電力需要が削減できるのですから。そして次には、電力システムの大規模・集中化を廃し、小規模・分散化をはかることです。何か問題が起きても、小規模であれば対策もこまめに打てるし、いろいろな可能性が試せます。分散化が実現するとき、私たちは原発の不安から解放されるのではないでしょうか。原発は高価であり、このような電力システム分散化には不向きだからです。
 そして最後に私たちは、タイの人々がどんな社会を望んでいるのか、どこまで工業分野への偏重を進め、日本や台湾の企業に対する優遇策をひき続き認めるのかを見ていかなければなりません。安価な電力の半分以上は、彼らが消費しているのです。誰が差額を負担しているのでしょうか。確かにこれは、私たちタイの社会が自分で解決しなければならない問題です。

日本が実験炉建設を提案
 現在、数多くの企業や政府がタイに原発を売りこもうと躍起になっています。韓国、インド、日本、カナダ、フランスなどの国が、計画されている6基の原発の契約をめざしています。日本は、5000キロワットから1万キロワット級のパイロットプラントの建設をもうし入れてきました。もしこのパイロットプラントを受け入れれば、事態はどんどん進むでしょう。それが成功すれば、次には本格的な建設が続くことになります。ですから日本の人々の手で、このパイロットプラント計画を中止させてほしい。それが私のお願いです。
 日本の人々の経験から、1基の建設を許してしまうと、2基、3基と増えてゆくということを私たちも学びました。つまり原発のない社会を守るためには、いまがタイの人々にとっての正念場です。私たちの連帯によって、原発のないタイを守り、あなた方の国から原発をなくしましょう。どうもありがとうございました。

  
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