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第一回 日本
東京 ノーニュークス・アジア会議

各国報告 インドネシア



住民の頭越しに進む
原発計画
日本の原発輸出を
とめてほしい


インドネシアは軍事政権下にあります。
万が一の彼らの安全のため、
画像を一部処理しています。

ウェッブ・ワーロウ
インドネシア、環境調査保護委員会KPPL
Web Warouw

ナナ・スハルタナ
インドネシア、ソロYMCA
Nana Suhartana


司会(朴賢緒)
 ありがとうございました。次はインドネシアからのおふたりです。最初にウェッブ・ワーロウさん、次にナナ・スハルタナさんが発言します。

ウェッブ・ワーロウ(インドネシア)
 発言の機会を与えてくださりありがとうございます。私たちは人口1億8000万人を抱えるインドネシアから来ました。インドネシアにとって日本は最大の投資国であり、それに韓国、台湾、米国が続きます。私たちはジャワ島中部のムリヤ山の近く、ジュパラという場所で起きている問題を携え、このフォーラムにやって来ました。すでに日本企業が調査を開始しているこの原発計画に関して、全体的な背景と状況を述べたいと思います。

原発予定地の状況
 名前のあがっているのは、ウジュンワトゥ、セレリン、そしてバニューマニスの3村で、どれも中部ジャワ州のジュパラ行政区のケリン地区にあります。土地は非常に肥沃なのに民衆の所得水準は低く、このため教育や厚生は満足なレベルにありません。また、地域を自主開発する能力も十分ではありません。
 3つの村の人口は、3500家族、約1万2000人です。ウジュンワトゥに1075家族、セレリンに1000家族、残りがバニューマニスです。ウジュンワトゥ村を例にとると、57%が賃金労働者で、その内訳は農業労働者が36%、工場労働者が21%となっています。残りは14%の漁民、12%の零細農民、そして17%が政府職員または兵隊です。教育施設が十分でないため、教育水準は低く、9%が初等教育のみ、64%はその中途退学、5%が高等教育で、残りの22%はまったく学校教育を受けていません。

政治・経済問題としての原発
 インドネシアの環境問題のなかでも、ムリヤ原発の問題は特別です。核の問題は、科学技術や環境破壊という問題だけではなく、イデオロギー(思想)の問題であり、政治・経済の分野での闘いでもあるからです。インドネシアのような第三世界の資本主義国にとって、核問題は先進工業国からもたらされたものであり、搾取のシンボルです。核テクノロジーをコントロールすることは、権力のシンボルです。
 先進資本主義国家は常に、第三世界民衆を脅すために広島・長崎のことを語りました。彼らは自ら支配するあらゆるメディア、つまり歴史文学、映画、ブルジョア新聞を使って、ファシズムを非難しています。しかし彼ら自身がファシストのやり方で第三世界民衆を脅してきたのです。政治的に力を持っていない国が、核を持つことで力を得ようとするのは、幻想にすぎません。しかし、彼らはそれを自覚していないのです。
 別の角度から分析するとインドネシアはやはり第三世界の国のひとつであり、ふたつの資本主義国家ブロックの利益を賭けた争いの現場です。ふたつのブロックの一方は日本で、もう一方は西欧、すなわちアメリカとヨーロッパ諸国です。わが国の資本家ブルジョアジーは、これら外国資本の代理人にすぎないし、ふたつのブロックのどちらにくみする官僚が優勢であるかが、国家政策に反映します。
 セミトロやアリ・ワルダナのようなハーバード大学、バークレー大学卒の経済学者、彼らは1966年初めに、スハルト時代初期の政策を西欧寄りにした人たちですが、すでに指導的な立場を失っています。いや当時でさえ彼らの力は、国家経済システムを握っている軍部にはおよんでいませんでした。彼らの一部は、スカルノ体制を倒すために軍部やCIAと結託し、100万人の虐殺に荷担したインドネシア社会党につながっていました。
 80年代になって、B・J・ハビビやシオノ・スカンダニに象徴されるテクノクラート(技術官僚)のグループが台頭してきました。ハイテク技術の利用を推進し、日本型の開発を指向する彼らは、いまや技術分野だけではなく、経済分野でも主要な地位を占めています。彼らは、資本家・官僚によるスハルト体制に密着しています。
 この現実が意味するところは、核テクノロジーの推進派と反対派にとっては明らかです。東チモール問題では、アメリカとヨーロッパ諸国は人権侵害だとしてスハルト政府に圧力をかけました。しかし結局、ヨーロッパ諸国は現政権を支持しました。インドネシア社会党の残党と旧来の経済学者たち、それに国軍の不満分子たちも、スハルト体制に反対するという意味で反核運動を支持しています。現政権を支えるテクノクラートと資本家・官僚に立ち向かうという、共通の利益があるからです。

軍事利用のための核テクノロジー
 最近のインドネシアの技術開発は、世界的な資本主義的工業化の波に乗ったものであり、ブルジョアジーの利益のためのものです。テクノロジーと軍事力は、彼らの経済的権益を守り、拡大するために集中されています。核テクノロジーとして原発を開発するという軍の関心が、電力だけではなく軍事上の必要性にあることを私たちは知っています。それはまた、最近の日本の軍事開発動向と軌を一にするものでもあります。報道されていませんが、フィリピンのスービック基地からオーストラリアに向かう米軍の潜水艦が、常にインドネシアの領海をとおっていた事実があります。
 今後、核の危険性については、軍事利用だけでなく、非軍事利用についても見ていかなくてはなりません。軍事利用のための核テクノロジー開発と、政治・経済的な非軍事利用とは表裏一体です。このテクノロジーを開発し支配することは、政治・経済的権益という面で他の国々に対して、わが国の地位を強化するものであるからです。
 私たちインドネシア民衆の大多数が直面しているのは、核エネルギーの必要性の問題ではありません。人権侵害の問題であり、非民主的な政治・経済体制の問題であり、そして環境破壊の問題です。テクノロジーが生みだすすべてのものが民衆にとって有益になるのは、民衆がその国の主権を真に獲得してからです。全世界の人類が、搾取も抑圧もなく平和に共存できるようになってからなのです。

民衆運動のもりあがり
 インドネシアではいまやっと、民衆が自らの民主制度をつくろうとしはじめたところです。3世紀半におよぶオランダの植民地支配下での搾取・抑圧体制に対し闘い、3年間は日本のファシズムと闘い、そしていまにいたるも、スハルト体制下の資本家と結託した日米帝国主義と闘い続けています。私たちはいまも貧困と抑圧のなかに生き、歴史によって心の奥に刻まれた恐怖にさいなまれています。闘いを進めてこの歴史的な抑圧体制を打倒しないかぎり、真に民主的な政府をつくることはできません。
 民衆の運動が核の危険性を意識するようになったとき、土地収奪、移民、失業、労働搾取などの従来からの政治・経済的な運動だけでなく、新たに環境保護運動も生まれてきました。核の危険性の問題は、中産階級のあいだにも恐怖心をひき起こし、この問題に関する民衆の運動は広範囲に広がっています。学習会や講演会が開催され、そしてそれは環境問題だけでなく政治・経済的な問題をも含んで、この問題への理解を深めています。このように核問題は、広範な民衆を政治的に目覚めさせる契機となっています。中産階級のあいだにも、まだ研究会的な形ですが、反核グループがいくつも誕生していますし、大きな環境問題NGOもこの問題にとりくみ、声明を発表したり、議会に代表団を送ったりしています。

私たちの見解と要求
 私たちの現状に対する客観的な考えを示したいと思います。
  1. 私たちは「テクノロジーの時代」に生きている。テクノロジーはそれを用いることで効果のある近代技術を提供する。
  2. 巨大資本主義国家の関心は、低開発国の人々の生活を支配し搾取することにある。
  3. 巨大資本主義国家は、その技術を自国の利益のために役立てるだけで、低開発国にそれを申しでる場合も、それは自国の利益を得るための道具に過ぎない。
  4. 核テクノロジーもそのような技術のひとつであり、インドネシアにおける搾取の効率を良くする手段である。

 私たち環境調査保護委員会(KPPL)とインドネシア国際連帯フォーラム(FISI)は、世界、特にアジア太平洋の人々を脅かす危険な原子力に関し、私たち自身の分析にもとづき、以下のことを要求します。
  1. 危険な原子力で利益を得るのは、帝国主義諸国、とりわけ日本の帝国主義者である。原子力を世界、特にアジアにおいて開発し拡大させようとする日本帝国主義者の策謀に対し、すべての環境保護グループは反対しなければならない。
  2. インドネシア政府の原子力開発計画に対する私たちの闘いに、国際的な連帯を呼びかける。日本の援助によってすでに開始された調査計画の断念を、スハルト政府に受け入れさせなければならない。
  3. 誰の利益にもならないばかりか、結果として次の世代にとり返しのつかない災厄をおよぼす核テクノロジー、核拡散と核開発をはじめとする日本資本主義者反動政府のすべての政策に反対し闘うことを私たちは日本の民衆に対して要求する。
  4. 私たちはまた日本の民衆に、私たちの血と汗を絞りとっている日本帝国主義に対し、私たちとともに闘うことを要求する。資本主義の名のもとに搾取が続けられるのであれば、どんな闘いも無意味になってしまうからである。
  5. あらゆる種類の環境破壊と搾取に対し、闘う民衆の国際連帯を強めよう。世界に真の平和がくるまで闘い続けよう。
  6. 核開発計画を合法的なものとして進めるすべての政府に対し、たとえそれに千の理由があったとしても、私たちは次の世代の命のために、それを中止することを要求する。
 以上です。ありがとうございました。


ナナ・スハルタナ(インドネシア)
 こんにちは、みなさん。壇上にいるこの会議の参加者の中では、私が一番若いかもしれません。私は27年前、スハルト体制下に生まれました。そして、スハルト体制はいまも続いています。

原発導入を決めたインドネシア政府
 インドネシアは世界で5番目に人口の多い国で、現在急激な経済成長の途上にあります。この経済成長とジャカルタにおける中産階級の出現、さらにジャワ島への日本資本の工場進出と、この10年のあいだに起こった出来事が大きなエネルギー需要を生みだしました。一方、インドネシアはエネルギー資源の宝庫であり、石油や石炭が開発されています。しかし、太陽や潮汐や風のエネルギーは真剣に検討されたこともありません。
 電力公社の予測によると、1億8000万の人口を擁する21世紀初頭のインドネシアでは、2700万キロワットの電力が必要になりますが、ダムを使った水力発電などの従来型発電システムでは、853万キロワットしかまかなうことができません。この予測をもとに政府は従来型ではない発電設備の導入を論議し、最終的に原子力を選びました。
 すでにジャワ島には2基の研究炉があります。ひとつはジャカルタに近い西ジャワのサポンにあり、もうひとつはジョクジャカルタのオルソ・カプテニです。原発を計画し推進するのはインドネシア原子力庁(BATAN)で、さらに原発を社会に認知させることを目的として、原子力広報チームが設立されました。彼らは地域住民に対し、「原発は危険なものでなく、恐れることはないのだ」と説明していますし、開発技術担当大臣のハビビ氏は「インドネシアの原発は世界一安全だ」と公言しています。

計画地のムリヤ半島
 ジュパラはジャワ島中部、人口約40万人の都市で、地理的にはジャワ海沿岸部にあります。500年前から活動していない火山があり、それがムリヤ山です。ジュパラといえば、かっては木工芸品とムリヤ山、それにインドネシア最初の男女同権活動家として名高いカーティニ女史のことを語ることが常でした。しかしいまは違います。人々の関心は、政府がここに建設しようとしている原発にむいているのです。
 開発技術担当大臣ハビビ氏は、ジュパラが最も可能性の高い立地点であると言っており、候補地としてジュパラ行政区内の3地域があげられています。ケリン地区のウジュンワトゥ村、ムロンゴ地区のウジュンプリン・ジャンブ村、バンスリ地区のウジュンラブハン・ボンド村です。その中でも最も有力なウジュンワトゥ村には、1万1683平方キロメートルに4217人が住んでいます。村内につくられた気象観測所と微小地震観測所が、有力候補地であることを示しています。

何も知らされていない地元住民
 原子力を社会的に認知させることを目的にチームが結成され、政府の原発建設計画を宣伝し始めています。最初は知識人層や研究団体などへの説明でしたが、いまではジュパラの人々にも説明を行なっています。しかしその内容は、わかりやすいものではありません。彼らは「原発はまったく安全だ」と言います。「事故を起こしている他の国の原発とは違うのだ」とも言います。しかし実際には、計画の中身の大部分が機密扱いであり、人々が計画の全貌を知ることはまったく不可能なのです。
 政府はすでに建設準備に入っているといえます。ジュパラでは、道路をはじめとする様々な開発が行なわれています。これはジュパラの人々に、原発のことを心配させないためでもあります。「原発ができたら豊かになる。仕事もある」と、人々に空手形を与えています。その一方で政府は、地元住民をどこか他の島へ移住させようとしています。<本文> 現地住民に対して直接、原発に関する説明が行なわれたことは1度もありません。地域のリーダーたちの一部に対して行なわれただけで、しかもその内容を漏らしてはならないとされています。もし原発のことを他人に話したら、その人は禁止されている共産党のメンバーだと見なされ、逮捕・投獄すると脅されるのです。国家の開発計画に反逆しているというわけです。

情報統制の中での活動
 原発に関して政府からもたらされる情報はほとんどありません。あったとしても非常に限られたもので、また原発推進の論理にそったものでしかないことを、私たちはよく知っています。原発の危険性は、ジュパラの人々と地域にとって大問題なのですが、それだけではなく、全世界の人々にとっても同じです。
 原発の危険性に気づいた人々、学者、知識人やNGOは、数回にわたってセミナーを開催してきました。しかしセミナーを公開で行なおうとすると、政府はそれを中止させてしまうのです。国民、とりわけ計画地域の人々にセミナーやリーフレット、新聞での意見などのかたちで情報を与えることを私たちは要求しています。
 NGOの中には、原発の危険性に関する情報を伝えることで、政府の流す情報とのバランスをとろうとするところもあります。彼らは地域の人々を組織し、できるかぎりのことをやっています。しかしジュパラで原発のことを語るのは、大変な困難をともないます。こっそりと情報を流したり、ときにはジュパラの市外に2〜3日のあいだ、住民の幾人かをつれ出して原発討論会を開いたりするのです。
 ジャワ島には公正な情報と、民衆の組織化のために活動しているNGOの連合体があります。しかし不幸なことにその連合体は瀕死状態です。なんとかこの連合体を生きのびさせなければなりません。ソロの人々やNGOのいくつかがとりくんでいますが、連合体を再起させ、地域の組織化のために共同し、ノーニュークスのキャンペーンを世界中で、そして何よりインドネシアで行ないたいと思います。
 ジュパラ出身でジャワ島の別の都市で学んでいる学生たちに情報を伝えることも、いま行なっている活動です。1992年8月には、パラリーガル・トレーニングと名づけたセミナーを行ないました。でも1993年6月3日から5日に予定されていたセミナーは、政府によって中止されました。私たちはそのセミナーに、政府側の研究機関の研究者を数人、発言者として招いていたのですが、それにもかかわらず政府はこのセミナーを中止させたのです。

地域での地道な活動が出発点
 私たちは原発の危険性に気づき、実感しています。インドネシアに原発が計画されてしまった以上、最も重要なのは、どのようにして地域の人々をこの問題に向かわせることができるかです。地域で地道に活動することが、最も優先度の高いことです。それがあってこそ、私たちは全力をあげて原発に反対して闘っていけるのです。私たちはまた、国際連帯が不可欠であることも実感しています。私たちだけで闘っていくことは不可能です。あなたがたの連帯を必要としています。しかしながら、先頭になって闘うのはやはり私たちです。私たちが闘いを始めないことには、何も起こらないからです。
どうもありがとうございました。

  
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