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日本のプルトニウム政策
その3つの脅威

ウォールデン・ベロ(タイ・チュラロンコーン大学教員)


  3月11日に発生した東海村・再処理工場で起きた爆発事故は、日本のプルトニウム政策に対する広汎な論議を再燃させることになった。そして原子力政策そのものに対する反対者を増やしただけではなく、近隣諸国に対して、日本が軍事転用可能な余剰プルトニウムをため込みつつあるという現実を思い起こさせた。
  日本政府は、余剰プルトニウムゼロという方針を掲げてきた。つまり、こプルトニウムの需給バランスを保つことで、近隣諸国から日本が核武装するのではないかとの懸念を払拭しようとするものである。
  しかし高速増殖炉が破綻した今、日本政府にはMOX燃料(プルトニウムをウランと混合してつくる燃料)を軽水炉で使用する道しか残されていない。しかしこの計画も、国民の強い反対に遭うことが予想される。

  つまるところ、事実上日本は余剰プルトニウムを抱えているのである。この余剰量は、高木仁三郎氏によると、1993年の8.9トンから1994年には11.6トンへと増加している。今後は2000年までに30トン、2010年には70トンに達すると見積もられている。
  高速増殖炉が挫折し余剰プルトニウムが激増していくにもかかわらず、日本の官僚政治はいまだにプルトニウムをエネルギー政策の根幹とする考え方にしがみついている。
  この官僚主義的で固陋な態度が、国内外に疑念を高めてきた。日本のプルトニウム政策が何らかの方法で「核への可能性を残しておく」ような安全保障政策と結びつくのではないかという疑念である。
  東アジアの安全保障の状況が複雑化していくというシナリオを思い描く人たちがいる。日本はある地点から日米安全保障条約をはなれて、国防の柱としてもっと自立した防衛政策を取ろうとするかもしれない。そのこと事態は悪いことだとはいえない。
  しかしながら、日本独自の防衛政策は、左派の人々が主張するような、他国間の平和と安全保障に根ざしたものにはならないように見受けられる。そうではなくて、核兵器をも備えた強大な軍事力を持とうというネオ・ナショナリストの道を歩もうとするのではなかろうか。

  日本のプルトニウム政策は、周辺諸国、特に朝鮮半島、中国に懸念を抱かせている。そしてその結果、防衛上の理由からプルトニウムの再処理を自前で行うという彼らの野望を助長することになってしまう。また、現在日本国内では核兵器に対する激しい反対があるが、いつまでもそうであるとは言い切れない。政治状況が変わって右派が台頭してきたとき、プルトニウムが兵器製造に使われる可能性は否定できないのだ。

  ところで日本には核兵器製造能力があるのだろうか? すでに日本にはその技術があるという人々がいる。ロシア政府が最近行った調査は、日本は政治決定があってから20日から2ヶ月以内に核兵器を製造する力を持っているとの結論を出している。

  日本がプルトニウム政策を放棄することが、環境および健康被害という理由のみならず、紛争が絶えない東アジア地域の緊張を和らげるためにも必要なのである。

タイ・Nation紙(97年3月18日付)より抄訳


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