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タイ新政権副首相が原発建設を明言
そして、カナダからの手紙 〜すべてのタイ人の皆さんへ〜


☆Thailand Update☆
タイ新政権副首相が原発建設を明言

近年の動き

1993年;政府が、原発の安全性と環境に与える影響に関するプロジェクトの立ち上げを決定、科学・技術・環境省(MOSTE)の法令とPR戦略をさらに強力なものとし、原子力平和利用局に対して、原発の安全性に関する小委員会を設置することを指示した。

1994年;チュアン・リークパイ政権は、 取り締まり基準をも含めて、MOSTEが原子力関連施設の安全性を監督する機関を設立することを明らかにした。同年12月には、さらに政府から、 MOSTEを責任機関として原発建設立地可能性調査のための委員会を組織し、6年間にわたって7億5000万バーツの予算でFS(立地可能性調査)を行うこと、広報には5000万バーツを投入することなどが決定された。

1995年;MOSTEのインパン・マナシカーン氏が、反対運動にもかかわらず、タイ電力(EGAT)を代弁する形で原子力の導入に乗り出した。政府関係者はタイ原子力政策局を通じて原子力政策を立案、タイ湾に原発を建設するという計画を推し進めはじめた。

1996年;バンハーン政権は原発立地可能性調査委員会を結成。この委員会は、安全性、経済、広報、環境の4つの小委員会から成っている。政府は、1000MWの原子炉を4基建設したい意向である。7月23日、内閣はMOSTEの大臣を議長とする「21人委員会」によるFSに補助金の支出を決定した。12月16日には、チャワリット内閣がエネルギー政策を発表、サマック副首相が、電力需要をまかなうために、タイは一刻も早く原発を持たなければならないと発言した。

1997年;原子力再考プロジェクトが開催した「原子力時代をどう生きるか」のセミナーに出席したEGAT機械工学部門のウィワット氏は、EGATがすでに原発建設に適した地域を4ヶ所選定したと発言した。それは、ナコン・シータマラート県に1ヶ所、チュンポーン県に2ヶ所、そしてプラチュアプ・キリカーン県に1ヶ所である。しかし、具体的な場所はまだ決定していないという。1月初旬に、産業界の代表とともにカナダのクレティエン首相がタイを訪れ、カナダの原子力技術をタイへ売ることについて発言した。


下に掲げるのは、クレティエン首相のタイ訪問に先立って、自国内で行き詰まったカナダの原子力産業がタイに食指を伸ばしつつあることを危惧したカナダの環境団体によるタイ国民宛ての公開書簡です。


公開書簡
〜すべてのタイ人の皆さんへ〜

1997年1月14日

  カナダのクレティエン首相が今週、CANDU炉(重水炉)を売り込むためにタイを訪問します。カナダの原子力産業は、原発をアジア地域に売ろうと躍起になっています。この状況は特に、カナダ国内において、その経済効率の低さと住民の反対運動の高まりによって原発建設が見込めなくなった1990年代に入ってから顕著になっています。カナダ全土の数千という私たちの仲間を代表して、この極めて危険で商業的にも採算のあわない「科学技術」をタイの人々に押し付けようとする計画に対して、私たちは反対の声を上げ続けることを伝えたいと思います。クレティエン首相が、原発売り込み旅行中には決して口にしないであろう原子力技術の現実について、お話しさせてください。

  原発で作る電気は最も安価であるとのふれこみにもかかわらず、総電力の60%をCANDUに依存するオンタリオ州では、 CANDUのあまりの経済効率の悪さゆえ、非常な遠隔地を除いてはカナダでもとびぬけて電気料金が高くなっています。最も最近完成したオンタリオの原発、3524MWのダーリントン原発の総工費は、1440億カナダドルにまで跳ね上がりました。これは当初の見積もりの3倍で、今後オンタリオの納税者たちがこの責任を負わされるというわけです。

  カナダ国内のCANDU炉は、現在深刻な老朽化の問題に直面しています。生産性が低下していく一方、操業とメンテナンスにかかる費用は驚くほど急激に上昇しています。ほとんどのCANDU炉は、最初の11〜12年間は非常に高い出力率で電気を生産し、その生産性はしばしば80%を超えるものです。しかしその期間を過ぎると、生産性は劇的に、50%かそれ以下まで低下します。当初原子力産業は、原発は80%の生産性で40年間操業可能だと主張してきたわけですが、これが全くの空約束だったということが証明されています。それどころか、老朽化が進むほかの炉と同じく、 CANDU炉もすでに早い時期での閉鎖に直面しています。

  1996年の10月には、オンタリオ州が経営する電力会社オンタリオ・ハイドロは、20のCANDU炉のうち、18年間しか稼動していない1号炉を閉鎖しました。同年12月には、オンタリオ・ハイドロは23年間の操業の後、2基目も2000年には閉鎖すると発表しています。先週、原子力技術者が、13年目のポイント・レプロー原発で細管の腐食が発見されたことを明らかにしました。これも、炉を早期の閉鎖へ追い込みうる問題です。

  法外な費用と技術的な問題といったことを別にしても、カナダではCANDU炉によって健康と環境に対する多くの問題が起こっています。我々の統計調査は、オンタリオの原発周辺における小児白血病とダウン症の発生率は、原発に接近すればするほど上昇することを示しています。放射性廃棄物処理施設の立地に対する住民の反対が高まったことで、放射性廃棄物処分と廃炉の問題も、棚上げにされたままです。きたるべき放射性物質除去のための予算さえ、原子力事業者たちは準備していない現状です。
原子力技術による、背筋の寒くなるような危険と非経済性が白日の下にさらされるようになり、世論調査によるとカナダ人の大部分が原発の増設に反対しています。タイの皆さん、今を生きる世代、そして未来の世代を原子力に売り渡してしまうことになる前に、 CANDU売り込み業者たちの提示してくる一面的な情報だけではなく、現在明らかにされているすべての事実を注意深く考えてほしい、そう訴えたいと思います。

エネルギー調査研究協会
理事・トーマス・アダムス
(訳・石原あゆ)


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