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【情報】フィリピン状況
時代に逆行する原子力プログラム復活


〜フィリピン・スター紙 (96.12.27付)より〜
フィリピン政府が原子力プログラムを復活

  フィリピン政府は少なくとも1基、もしくは複数の原発を建設することを計画中である。事実、政府は以前頓挫した原子力プログラムをよみがえらせつつあり、既に1基目の予定地を明らかにした。

  「2020年までには原発を稼動させることができるだろう」国営電力公社・技術資源及びサービスグループ部長のサルバドル・サルミエントは語った。

  サルミエントによると、候補地としてあげられているのはどれも人口稠密地帯から離れた地域で、ミンダナオ島北ザンボアンガ州、ネグロス島の東西両州、そしてパラワン島パラワン州とルソン島カガヤン州にある。
  「これらの地域については、1997年春頃に地形学などの諸研究、調査を行うことになっている」
  エネルギー省(DOE)主導の合同機関である原子力推進委員会(NPSC)はすでにラモス大統領に対して、原発建設のための予定地として10ヶ所を提出している。
  エネルギー次官のバン−フル・サルセドは「2025年までに原子力発電によって石油2593万バレル相当量がまかなわれ、全エネルギー量の2%を占めるようになるだろう」と述べた。
予定地の選定はまず、地震および構造地質学的に安定的であることを基準に行われ、歴史的に見て活火山が存在する場所からは遠く離れている。予定地選定小委員会は今後、これらの中から4ヶ所について初期調査を行う。
  使用済核燃料の貯蔵については、特に予定地は特定されなかったが、サルミエントは「使用済核燃料はプラント内にまず貯蔵し、そして最終的には別のところに地中深く埋めるというのが標準的なやり方である」と。
  どれだけの電力を原子力発電によって見込むのかについては何も決まっていないという。
「21世紀のこの国の電力需要から見ても、1基できれば必ずやその後に複数基の建設が続くだろう」とサルミエントは語る。
  620MW級のバターン原発は完成目前の1985年に、安全性、放射性廃棄物の貯蔵、仕様(設計)などの問題から操業中止となった。1995年にはラモス大統領がバターン原発を、パラワン天然ガス油田の天然ガスを使う1500MWの火力発電所へ転換することを明らかにした。
  フィリピン原子力研究所が開催した、アジア地域におけるパブリック・アクセプタンスの国際会議において、サルミエントは「1000万ペソの予算で、NPSCは市民向けの原発関連教育、予定地選定、地質学調査、人的資源の育成、従来の発電所と原子力発電所の健康と環境に対するインパクトの比較研究といったことを優先して行う考えである」と発言した。
  NPSCは放射性廃棄物処分方法の技術についても検討を行う。再処理と処分について実験的な技術研究も行う予定である。そして最終的な放射性廃棄物の処分地選定のための基準作りにも着手する。究極的には国立放射性廃棄物管理センターを設立したい考えである。

  「スリーマイル島とチェルノブイリの事故は原子力発電にとても否定的なイメージを与えてしまった。我々はPA活動を通して、納得行くところまで、放射能漏れ事故の可能性、健康に対する危険性、環境に対する影響、廃棄物の処理、予定地選定など人々が不安を感じている事柄について発言を行っていくつもりだ」
  サルミエントは、現在の割合でフィリピン経済が成長を続けていくならば、1996年から2005年の間のエネルギー消費は年平均11.9%の割合で増加していくと述べる。「この予測に立脚して、フィリピンはむこう10年間で13642MWの発電能力を追加建設しなければならない。この計画を現実のものとするためには、180億ドルが必要となる」と彼は述べた。この予測の中には原子力は含まれていない。
  フィリピンは既存の水力発電所からの2.278MWを含めて、245ヶ所、12308MWの水力発電能力を秘めている。20ヶ所の地熱は、2365MWから3705MWの潜在能力を持ち、この中には現在使用中の1194MWと開発中の900MWのものがふくまれる。 石炭埋蔵量は2億3900万トンと見られており、石炭による電力の最大2155MWをまかなうことができる。パラワンの天然ガス備蓄量は10〜15年にわたって3000MWの発電を支えることができる。
  エネルギー省の目標によると、上述のような在来のエネルギー源でまかないきれる総発電能力は、2025年までで20600MWに過ぎないという。

 


〜ビジネス・ワールド誌(97.1.7付)より抄訳〜
時代に逆行するフィリピンの原子力政策

  我々は今、原子力の問題に関してどんどん時代に逆行する道を歩んでいるのではないだろうか。

  1996年12月の第2回原子力会議において、エネルギー次官のフランシスコは、国内のエネルギー政策の一環として原発建設のための予定地をすでに10ヶ所選定して政府に提出したことを明らかにした。そのうちの3ヶ所はネグロス西州にある。この地域は、豊富なエネルギー源に恵まれ、パリピノンの地熱発電によって隣接するセブ島、パナイ島などにも電力を供給しているというのに。

  APEC首脳会議が終わったとたんに原子力問題が急浮上してきたことを不審に思うのは私だけではないだろう。これは、スリーマイル島の事故以来アメリカでは原発の新規建設が不可能になってしまったからだろうか、それともカナダでは水力発電へ比重が移ってしまったからだろうか。彼ら自身、危険な無用の長物である原発をもてあましているのが現実だ。

  原子力から脱却し、その土地に根づいた再生可能なエネルギーを利用するというのが全世界的な趨勢ではないか。彼らは、私たちの未来のために原子力が必要なのだという。しかしそれはいったい誰のための未来なのだ?

  その昔、私たちの国は白人たちにとって香辛料の島であった。今はどうか。毒物と、先進国で拒絶された時代遅れの技術の処分場にされてしまっているではないか。
私たちは決して、原子力推進者たちに組したり洗脳されたりしてはならない。これまでの長い闘いの中で、私たちは確かに力と知恵を得てきている。

  我々は政府関係者、産業人、学者、そして一般民衆に訴える。まず環境を守り保全すること、貧困と闘うこと、そしてきたるべき世代のために豊かで力に満ちた環境を目指すことを。

アントニオ・クラパロル(フィリピンエコロジー協会代表)


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