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■漁会 林界春さん

  翌日、漁会(日本でいう漁業組合)をたずね、総幹事の林界春さんに合った。
  彼とは1月の訪問でも合ったのだが、そのとき、非常に苦しい状況を語っていたので特に気になっていた。
  彼の話によると、更に状況はきびしくなってはいるが、現在行っている埠頭建設等のための工事に必要な海域の保証は受け取っていないままだという。しかし、台湾電力はその海域を強制的に取り上げ、工事を開始しているのである。

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左が林さん。右が筆者。立っているのが、漁会の職員の方。

  日本では、若い人が漁業の後を継ぐ状況だと原発を建てさせないことが多い、といったことを話すと、そんな楽観的な状況ではないという。つまり、漁会はまったく譲歩はしておらず、なんの了解もしていない。にも関わらず工事は着々と進められているわけで、抵抗のしようがない、というのだ。
  たしかに、塩寮の町といい、漁会といい、原発を受け入れる態度は一切ない。にもかかわらず、工事は着々と進んでいる。
  それが台湾の状況だ。現地の人は十分がんばっている。これ以上なにをがんばれというのか。

  漁会の若い職員も同席した。彼に原発について尋ねてみると、もちろん反対だといって、いろいろ日本の状況などを聞いてきた。東海村のことを聞いてきたので、ハードディスクに保存してあるWebページ
http://www.jnc.go.jp/ztokai/kankyo/realtime/graph168.html
などを見せながら解説した。とても興味がある様子だ。
  事故当時の放射線量を記録したグラフ
http://www.m.ehime-u.ac.jp/~mtanaka/nuclear/
を見せ、事故が発生した直後の放射線量がなぜか記録されていないことを話すと、それは操作したデータを流しているに違いない、という。

  思わずこの後、雨が降ったため、そのせいでやっと記録されたのかも知れないこと、モニタリングポストの値はちょっとした風向きなどにも左右されるためもともとそれほど信頼できないともいわれていること、などを話した。

  しかし、非常に後味が悪い。

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塩寮の漁港。右が漁会の建物。
設備も整っており、とてもいい港だ。そして、南島町に、ほんとによく似ている。

  小郭に地層のことを話したときと同じ感触。
  日本にいると脱原発運動をやっていても、正確で、確実な知識のみを流さなければならない、という脅迫観念にさらされてしまっていたように思える。しかし、本来、そうした疑問に答えなければならないのは原発を推進する人々のはずだ。そうした質問をぶつけていくことも、彼らへのプレッシャーになるだろう。第一、素人がそれらを調べるだけでもたいへんな手間である。答える義務があるのは推進側のはずだ。
  私はまるで、飼いならされた犬のようだ。
  彼らのほうこそあるべき姿なのだ。
  もし、民主的に人々の意思により原発の是非が決められるのならば、ヨーロッパの国々のように少なくとも現在は脱原発の方向に向かっていけるような国ならば、「市民」の名の元に政府と対等な知識の元に方向を決めていくこともできるかもしれない。しかし、日本や台湾においてはそれが可能なのだろうか。
  リクツはリクツだ。不安ならば、心配ならばじゃんじゃん文句をいうべきなのだ。その素直な行動抜きに私の脱原発はあり得ない。

  知ること自体は大切だ。しかし、私はもう、解説役に回ることはないだろう。

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