スパキット氏の発言
大阪集会
スパキット氏の発言
大阪集会
前日に久美浜を訪れ、行動してきたスパキット・ヌンタボラカム氏は、若いがしっかりした態度で話す好青年だった。彼は少し早口な英語でしゃべり出した。通訳はNNAFJの宇野田さん。
以下、彼の発言をできるだけそのまま再現する。なお、文責はとーち(奥田 亮)にある。
私は、4つの事を話したいと思います。
まず一つは、久美浜町長に対する抗議についてです。
久美浜を訪ねた印象は、聞いていたとおり、町が原発を推進しようとしていることをあらためて感じました。しかし、その中で反対運動を続けてきている方々に心から敬意を表します。
最初に私が思ったことは決定権を持っている町長がタイの実態を知らず、電力事情についても知らないために、このような決定が行われてしまうのだということです。資源エネルギー庁から400万という金が出ると聞いていますが、タイの電力事情を知ればこのような金は無駄にせずに済むと思います。
この5日間の視察旅行は、電気のない、少数民族の村を訪ね、電気のありがたさを知り、久美浜に原発を作ろうという旅行です。しかし、タイでは電力不足ということはなく、将来も大規模な発電所を建てようとはしていません。このため、この旅行の目的は的外れだといえます。
では、なぜ未電化の村があるかというと、送電コストが高いために電気がないだけで、電力不足とは関係がありません。純粋に送電の問題なのです。電力が足りないわけではないので、この旅行の目的とはまったく合致しないのです。
これまでたしかに大規模な発電所がたくさん作られてきましたが、98年の経済状況の変化で電力需要が落ち込み電気は大量に余っている状態です。発電所の閉鎖も計画されているほどです。
そしてもう一つの問題としてこの旅行の目的が、非常にあからさまに差別的なものであるということです。
電力のない少数民族の村に行き電気のありがたさを知ることが目的だ、文化的な生活には電気が欠かせないことを知ることだ、としています。これはタイの少数民族の村が文化的ではなく、遅れた存在であるということをいっていることになります。これはタイの人間として認められるものではないし、日本とタイの関係にも悪影響を与えるものだと思います。
こうした目的ではなく、いかに自然と調和して人々が生きているかを、タイの村を訪れて見て欲しいと思います。
二つ目はタイにおける核の問題について話します。
タイが経済危機に陥る前、タイの電力公社と政府はタイで商業炉を建設しようとしていました。しかし、経済危機の後、すべての政府機関が財政困難に瀕していますので、資金的に困難なため商業炉建設に向けての動きは止まっています。
タイの政府は、公式に発表している計画で、今後12年間原発を建設する予定はないことを表明しています。
しかし、今のところは商業炉の建設はないといっていますが、研究炉の建設が問題になっています。今、タイのバンコクに2メガワットの研究炉がありますが、この研究施設をオンカラックというところに移そうとしています。原子力平和利用庁という機関があり、ここが研究炉を推進しています。
この庁は、医療のための研究をしたり、発電の研究を行うだけで、原発の建設には関係がない、といっていますが、もちろん実態は原発建設に密接に関与しています。ですから、オンカラックに作られるという10メガワットの研究炉は将来の原発建設に向けた準備だといえます。
原子力平和利用庁はこの研究施設は単なるリサーチセンタだといっていますが、すでに多くの問題が発生しています。
一つはこの場所が研究炉建設に妥当な場所かどうか、ということ。もう一つは建設基準が甘いのではないかということ。そして、こうした問題についてこのプロジェクトには市民の声を反映させる手段がないのです。
この地域は洪水の多いところで、毎年のように洪水が起こっています。そしてすぐ近くに水路があり、それはこの州でもっとも大きな川に続いています。このため、研究炉でなにかあれば、広大な地域に影響を与えてしまいます。この立地の問題に関しては、原子力委員会の委員からもこの場所は妥当ではない、という声も出ていますが、平和利用庁は無視しています。
そして、環境影響調査によるとなにかあれば近隣の家畜などが被害を受けることが書かれています。しかし、平和利用庁は住民の説明ではなんの被害も与えないと繰り返しています。ですが、住民はすでに平和利用庁の言葉を信じていません。
これまで、平和利用庁はタイの人々が放射能の知識がないということを利用して、この施設での放射能は極めて低いため、100%影響がない、などと言い続けてきました。これはもちろん、国際的な尺度でみれば許されることではありません。
しかし、住民とそれに協力するNGOは反対の姿勢を変えていません。
とーち注:この研究炉は日本の日立が
建設することになっている。
三っつ目は南部に計画されている巨大な石炭火力発電所について話します。
この火力発電所では大気汚染の問題、民家が極めて近くにあることなどが問題であると考えています。
私たちは、再生可能エネルギーと省エネルギーにより発電所を作らない場合に、環境や経済がどのようになるかをシミュレートした報告書を作成しました。その結果、発電所を作成する必要はないという結論に達しています。発電所を作らないほうが、経済的にも利点があり、数え切れないほどのメリットがあることが分かったのです。
この報告書は数字ではっきりと示しているので、ほとんどの人々は理解してくれますが、政府関係など利害関係のある人は、もう始めてしまったのだから、しょうがない、などといい、元の計画にしがみついています。
また、建設をキャンセルすると、違約金などをタイ政府が払わなければならなくなる契約になっていることも、計画を断念できない原因だと思われます。
(とーち注:この火力発電所は日本のトーメンが建設し、日本の輸出入銀行が関与しています。)
現在のところ、彼らが私たちの提案を受け入れる様子はありませんが、これからもしつこく働きかけを続けていきます。
最近、地方選挙がありましたが、この地区では定員15名のうち、13名もの議員が発電所に反対する議員で占められました。
四つ目はタイのダム建設について話します。
タイで最も大きなダム問題について、10年にわたって民衆の闘いが続けられてきました。
このダムはすでに建設が終わり、稼動を始めて5年になりますが、村の人々は激しい反対運動を今も続けています。建設が始まるとき、NGOなどが環境に影響がある、と指摘していたことがすべて、現実のものとなってしまっています。
これまで、現地の川といっしょに生きてきた人々は、漁業により生計を立ててきましたが、魚はいなくなり、漁業で生きていくことはできなくなりました。そして、発電量についても予定されていた発電が行えず、はるかに小さな量しか発電できていません。
住民の人々が求めていることは、ダムの操業を止め、ダムを開け、魚が戻ってくるようにしろ、ということです。
どうして、すでにできてしまったダムの話をしたかというと、建設が終わっていようとも運動は続いているし、続けていけるからです。このような巨大なダムはこれ以上は建設しないとタイ政府はいっており、このダムはタイで最後の大規模ダムだといえます。
仮に南部の火力発電所が建設されようと、運動は続いていくでしょう。火力発電所に反対を続けていくと同時に代替案を提示していき、政府が我々の主張に耳を傾けるようにしていきます。そして、たとえ建設はされてしまっても、これが最後の大規模発電所にしたいと思います。
日本の状況を見て、今でも日本が原発推進であることや、東海村の事故を知り、久美浜町長がタイにやってこようと、反対を続けていきたいと思います。直接的な反対をすることと同時に、どうして反対するのか、ということなどさまざまな情報を提供していきたいと思います。
この旅行についても、この視察団が原発推進のためにタイを旅行をするといったことは、これが最後のものになるようにしていきたいと思います。
今回の旅行に反対している理由は、差別的なものであることのほかに、日本で補助金のばら撒きし、金で立地現地の人を動かそうとすることに大きな問題があると考えます。日本にきて、日本の原発推進の力が強いことがよく分かりましたが、少しでも日本に新規原発立地が少なくなることを期待しています。
ありがとうございました。
スパキット氏が22日に久美浜町議会を訪れたことを伝える京都新聞 |