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地震国フィリピンの危険な原発計画

静岡大学 小村浩夫


アジアは原発売り込みの標的に

 経済成長を続けるアジアは原発の絶好の市場となっている。 日本の原子力産業は,以前は年間2基程度の原子炉の発注は恒常的に補償されていた。たとえば,87−91年の4年間には,三菱3基,日立3基,東芝4基の発注があり,それぞれ利益を見込むことができた。ところが,92−96年に決まっている受注は東芝の1基だけである。これでは原子力業界はお手上げだ。そこで狙うのが海外輸出。アジアはアメリカ,ヨーロッパ諸国,日本の原発売り込みの標的となってしまった。

「フィリピン2000」開発計画とバタアン原発放棄

  フィリピンもその標的のひとつになろうとしている。フィリピンは「フィリピン2000」という名の開発計画を進めている。この国はNIESの一員に入ることを目指し,遅れ馳せながら,懸命に日本や台湾の企業誘致で経済成長を図ろうとしているのだ。町を走る車のナンバープレートには, Philippine 2000 の表示がみてとれる。「死の行進」で有名なバタアン半島には,アメリカのウエスティングハウス社の原発がいったん建設されたが,ひどい欠陥品で運転に至らなかった。なんども原発としての稼働がもくろまれたが,
  フィリピン政府はこのほど最終的にバタアン原発を放棄,原子炉燃料はドイツ・シーメンス社に売却が決定した。この話は最近フィリピンで開催された市民レベルの会議,「反核アジアフォーラム」に出席し,その際バタアン原発を訪れる機会のあった筆者が,バタアン原発管理者から直接聞いたものである。これでバタアン原発の命脈は完全に絶たれた。バタアン原発が今後どうなるのか,なにも決まっていないようだが,原発自体はいまでもカービン銃やピストルをもった警備員に厳重に警備されている。それも不気味だが,送電線のない原発という存在自体も考えてみれば異様なものである。現実にバタアン原発に入ってみて,現地住民団体が「フィリピンの恥」というのも実感できた。

立地点は第1級の活断層の近く

  フィリピンのラモス政権は,フィリピン2000の一環として,さきごろ壮大な原発建設計画を打ち上げた。ルソン,ミンドロ,ネグロス,ミンダナオ島に10ヶ所の原発を建設しようというのである。その立地点のいずれもが,第1級の活断層に近く,近くに活火山まであるところもある(図1)。いまのところ,どの程度の規模の炉を何基ずつ建設するのかなどの詳細はなにも決まっていないらしい。ましてや炉型の選定などはずっとあとの話であろうし,10ヶ所の立地点の選定なども,すべてが可能だとも考えていないだろう。最も有力なのはルソン島中部でマニラにも近いバタンガスだ。ただ,ルソン島以外にも立地点を求めることは間違いなく,海底ケーブルと空中線を使って,諸島間の送電網を張り巡らす計画になっている(一部は既設,図2)。

相変わらず僻地で立地・都会へ送電

  計画についての説明はフィリピン原子力研究所の所長から直接聞いたのだが,この点は目新しい話だったので,「ミンダナオの原発がどの程度の出力になるのか知らないが,大きな原発をつくって発電した電力をルソンへ送るなら,ミンダナオの人達は大した利益も受けることなく,事故の恐怖に脅かされることになる」と指摘した。所長の答は「ミンダナオにもいずれ経済特区をつくるから,電力消費は増えるはず」というものだったが,あとでフィリピン非核連合の中心人物の2,3人から,「あなたの指摘は新しい視点だった」といわれ,こちらのほうがショックだった。僻地へ原発をつくり都会へ送電するというのが,原発のもつ差別的な特徴のひとつというのは,私達にとって共通認識のはずだからである。

"核のないフィリピン"原子力産業の餌食か

  フィリピン国有電力NAPOCORは,2005年までに500万キロワット,2020年までに2500万キロワットの電力を原子力でまかなう計画という。実現性に乏しい大風呂敷にも見えるが,大きな商売だから,原子炉売り込みが今後激しくなることは間違いない。台湾第4原発の受注に成功した東芝−日立,バタアン欠陥原子炉問題で,昨年やっとフィリピン政府との和解にこぎつけたウエスティングハウスはてぐすね引いて待ちかまえているのではないだろうか。
  米軍基地を放り出しバタアン原発の稼働を許さなかったフィリピンの反核運動は,ある意味で「アジアの輝ける星」だった。核のないフィリピンは,今後原子力産業の餌食になるかもしれない。帰りの便を待つマニラ国際空港で,タービン羽根をデザインした国際的原子力企業体のでかい広告ボードをみかけた。

(「地球号の危機」11月号より転載)


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