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ジャビルカ開発問題をめぐって関西電力と交渉 (97年11月)

(報告) 細川 弘明


 オーストラリア北部で新たなウラン採掘計画が進められようとしている。先住民族アボリジニーの恒久土地権が認定され、かつ世界遺産条約とラムサール条約がともに指定する第一級の自然保護区域でもあるジャビルカ地区(北部準州、カカドゥ国立公園内)には、皮肉なことに世界有数の未開発ウラン鉱脈が眠っている。ジャビルカ開発計画には、日本から関電・四電・九電が資本参加しており、もし採掘・製錬が始まれば、産出されるイェローケーキ (八酸化三ウラン) のかなりの部分を日本の電力会社が購入することになる (「ストップ原発輸出」キャンペーン・ニュースレター第18号の記事を参照)。
 地元のアボリジニー共同体は、この開発計画に強く反対しているが、推進側は強引に操業準備を進めている。ウランがだぶついている当面の需給状況を考えると、いまさら新しいウラン鉱山を開く必然性はあまり無く、むしろアジアでの将来の原発導入・増設を見込んだ開発計画であると疑わざるをえない。
要するに、ジャビルカ開発とは、わたしたち日本の消費者の電気料金によって、先住民
族の土地の権利が犯され、世界有数の湿原が汚染され、アジアへの原発輸出を促すという、実に情けなくもタワケた話なのである。
 この問題について、日本側の最大出資者である関西電力に公開質問状を出し、その回答を求める形で交渉をおこなった。その概略を報告する。(ご協力いただいた関電株主有志の皆様に感謝いたします。)

1. 交渉の経緯

 まず11月14日にファックスで24項目の質問状を提出。18日の会合での回答を求めたが、関電側から「質問項目が多く、内容も詳細にわたるため、すぐには回答を準備できない」との断わりがあり、18日は、午前中、関電本社玄関前と肥後橋交差点でジャビルカ計画に対する抗議と街宣活動をおこなった(京都のグリーンアクションの人たちが作ってくれた幟が迫力ありましたぜ!)。その後、21日に原子力広報担当 (塩見俊也課長、谷 大智副長) と会見 (NNAFの佐藤ほか4名が参加)、質問状に対する口頭での回答をうけ、約100分にわたり議論をした。以下、紙幅に限りがあるが、関電とのやりとりの一部をコメントをまじえて報告する。 (質疑全体のより詳しい記録をご希望の方は「ジャビルカ葉書キャンペーン」事務局までお問合わせください。→連絡先は文末)

2. オーストラリアからのウラン購入について

Q. これまで関電がオーストラリアから購入したウランの形態、重量、金額は?
A. 購入形態は天然六フッ化ウラン (転換済みウラン)。重量・金額については、契約上の守秘義務のため、回答できない。

Q. どことどこの契約か。
A. 当社 (関電) と日豪ウラン社* との契約だ。

Q. 転換ウランを購入するというが、オーストラリアには転換施設が無いから、イエローケーキのまま船積みしている筈だ。転換はどこでおこなっているのか。
A. 転換市場に影響を与えることになるので、その質問にはお答えできない。

Q. 転換は関電でおこなっている、ということか。
A. 別の会社に委託している。その会社名や場所は、やはり転換市場に影響を与えることになるので、お答えできない。

Q. 日豪ウラン社を通じて購入するウランは、すべて日本国内の原子炉燃料として使われるのか。今後の消費計画 (需給見通し) は?
A. すべて当社の原子力発電所で使う燃料となる。今後の計画にもとづいて必要量だけを購入している。消費計画については、ウラン市場に影響するので、お答えするわけにいかない。

Q. 契約当初に契約年数と購入総量は決められている筈だ。
A. 契約形態については、守秘義務があり、お話しできない。「スポット」ではない、とだけお答えしておく。価格は適正であると考えている。

Q. スポットでない以上、現実の需要の変化や消費計画の変化に対応できないのでは?
A. 需給のズレは、他からの供給 (カナダ産など) もあるので、調整できる。日豪だけから買っているわけではない。

3. レンジャー鉱山の環境汚染について

Q. 関電は、ERAがレンジャー鉱山で掘ったウランを (日豪ウラン社経由で) 購入してきたが、ERAの安全管理 (とくに廃水管理、鉱滓管理、労働被曝管理) について、どう考えるか?
A. 全般的に問題ない、と日豪ウラン社から報告を受けている。オーストラリアの国会の調査でも「問題ない」という結論になったそうだ。

Q. それは上院の特別調査委員会のことだと思うが、その報告書では数々の問題点が指摘された筈だ。それを日豪ウランは「問題ない」と伝えているわけか。とても正確な報告とは言い難い。
A. 当社としては、契約相手である日豪ウラン社からの情報を信頼する。

Q. レンジャー鉱山周辺 (とくに下流域) で確認されている放射能汚染・重金属汚染についてはどうか。
A. 周辺環境に悪影響を与えていない、との報告を受けている。

Q. 日豪ウランは、何を根拠にそう言っているのか?
A. ERAの報告にもとづいて判断しているということだ。

Q. 周辺地域の汚染については、これまでの (連邦政府による調査をふくむ) さまざまな調査で確認されているし、ERA社も認めているのではないか?
A. 当社としては、そのようには聞いていない。

Q. 現地報道では盛んにとりあげられ、オーストラリアではかなり大きな問題になっている。
A. 現地の一般報道等は承知していない。当社は購入に関するビジネスをやっている。必要な情報はビジネスのパートナーから入手し、それを信用するということだ。オーストラリア国内の問題はERAが対応すべきことだ。

Q. レンジャー鉱山の操業見通し (新規鉱脈の開発、旧採掘孔の処置、放射性鉱滓の処分、周辺の環境復元など) についての見解を。
A. 第1鉱床の採掘が完了し、第3鉱床については97年6月から採孔開始との報告を受けている。安全管理は適切で、環境への悪い影響は無い。閉山後は、復旧工事して開発前の状態に復元するそうだ。

Q. 残土や鉱滓を採掘孔に埋め戻すということらしいが、それが本当に技術的に可能なのか、放射能を適切に管理できるのか、やってみないと実は分からない、ということでは?
A. 技術的に可能、とERAが言っているので、信頼する。

Q. 環境を元の通りに戻すなんてことが、本当に可能なのか?
A. 技術に関する詳しい報告はうけていないので、細かいことは承知していない。仮に報告があっても、契約上、お話しできないだろう。

Q. 技術的に可能であるとは思えないが、それにしても相当なコストがかかる筈。
A. コストがかかってもウラン価格に反映するとは言えない。価格の見通しについては、市場に影響するので、お話しできない。

4. ジャビルカでの採掘計画について

Q. 「ジャビルカ開発」(ジャビルカ地区でERA社が準備しているウラン採掘計画) の現在の状況は?
A. (97年) 10月8日にオーストラリア連邦政府の資源エネルギー大臣が、ERA社の環境影響評価 (アセスメント) 報告に対する環境大臣の承認をうけて、計画を認可した。これからノーザンテリトリー政府* が開発許可を出し、連邦政府が輸出許可を出すことになる。

Q. 環境大臣は無条件で承認したわけではない。80項目以上の、かなり厳しい条件をつけたようだが?
A. その細かい内容については承知していないが、ERA社が条件を満たして操業することになるものと考えている。

Q. 条件がクリアできなかったら、操業しないということか?
A. ERAが対応すべきことで、当社の判断することではない。

Q. ジャビルカ開発の是非をめぐって、現在どのような議論がオーストラリア連邦議会でおこなわれているか御存知か。
A. 議会での議論の詳細は承知していないが、大きな反対の議論がおこなわれているとは思っていない。与党・野党あることだから、一部の反対はあるだろうと思っている。

Q. ジャビルカ開発に対するオーストラリアの世論をどう受けとめているのか?
A. 一部の反対はある、との報告を日豪ウラン社より受けている。

Q. 「一部の」といった程度か? オーストラリアの環境団体がこぞって反対しているし、一般の関心も高く、報道での扱いも大きい。大問題になっている、との認識はないのか?
A. 当社の認識は「一部の反対」ということだ。

Q. ジャビルカ鉱脈のウラン産出能力、品位、採掘費用、環境保全費用、社会的補償費用を、将来のウラン需給動向との関連もふまえて、どのように評価するか?
A. 推定埋蔵量 (製鉱換算) 99,600ショートトンU3O8、品位は 0.46%で、非常に優良な鉱脈と評価している。費用については、契約上の守秘義務があり、お答えできない。

Q. (レンジャー地区も同様だが) ジャビルカ地区が、ユネスコの世界遺産条約にもとづいて「世界自然遺産」および「世界文化遺産」に登録され、厳格な保全が義務づけられていることをどう考えるか?
A. 両地区の鉱区そのものは世界遺産から除外されている。周辺については世界遺産になっていると承知しているが、世界遺産登録の時点ですでにレンジャー採掘は始まっていたし、ジャビルカ開発の計画も立っていた。

Q. 世界遺産地区に完全に囲まれている。鉱区のところだけ (自然環境の条件が) 違うわけではない。そのことはERAも認めているのではないか?
A. ERAは環境保全に万全の対策をほどこすと聞いているので、それを信頼する。オーストラリア政府が採掘許可を与えている以上、適正な事業と考える。

Q.「国内問題」には関知しないという立場のようだが、世界遺産はオーストラリアの遺産ではない。文字通り、世界共通の、地球の宝だ。世界遺産の保全には、日本人としても日本企業としても責任がある。
A. あくまでオーストラリア政府の決定することである。

Q. 日本でいえば、屋久島(鹿児島県)や白神山地(秋田県/青森県)は世界自然遺産に登録されているが、日本の行政がOKをだせば屋久島に林道を作ろうが、白神のブナ林を伐採しようが良いということか?! そうではないだろう。世界遺産条約は、国際条約であって、オーストラリアも日本もともに責任をおっているのだ。
A. 国と国との関係に、一介の電力会社がとやかく言う筋合いではない。

Q. ジャビルカ地区の土地所有者として法的に認知されているアボリジニーがジャビルカ開発に対してどう言っているか? 関電は土地所有者の諸権利を尊重する意向があるか。
A. 一部の反対があることは承知している。開発主体はERAなので、あくまでERAが対応すべき問題である。当社として特に見解を示す必要は無い。

Q.「一部の反対」というが、ジャビルカ地区アボリジニーの総意としての反対ではないか。「一部の」というのは、現地には一方で開発賛成の声もある、という認識か。
A.「賛成の声もある」という表現での報告はうけていないが、賛成の立場もあるのだろうと受けとめている。オーストラリアの国内問題であり、外国の一電力会社がとやかく言うことではない。

Q. よその国の問題というが、ウランの大口購入という事実がある以上、責任があるのではないか。
A. ERAが対応すべき問題だ。当社はあくまで日豪ウラン社と契約しているので、ERA社と直接契約を結んでいるのではないから、ERAに要望したり指図したりする立場にはない。

Q. ERA社がジャビルカでのウラン採掘をおこなった場合、そのウランを購入する義務を負うような契約を (関電または日豪ウランは) ERAと締結しているか?
A. 当社は (日豪ウランを通じて) ERA社からウランを購入しているが、どこの鉱脈で採掘したウランが供給されるかはERA社が決めることで、当社が指定するわけではなく、またどの鉱脈のウランが供給されているのか、当社には分からない。

Q. 現在すでに結んでいる契約でジャビルカ産のウランを買うことも可能、ということか?!
A. 現在の契約のままでもジャビルカ産の鉱石は買える。あくまで会社と会社の契約で、どこの鉱脈かは関係ない。契約の詳細については、これ以上お話しできない。

Q. ビジネスとして出資する以上、その事業がかかえる環境問題やコストをしっかり吟味すべきではないか。問題のある事業に出資するのは、株主に対して無責任である。また、出資に応じて利益をうる以上、出資先の事業に対する責任も分担しなくてはならない。
A. 出資するということと、事業の責任ということは、別の問題だ。

Q. それは世間の常識と違う。それでは通らない。
A. 「出資する」ということは「事業を支援する」ということだ。有利だから出資する、というだけではない。良い事業だと判断するから支援していく。

Q. それならば、なお責任も伴うのではないか。

5. 補足

 ジャビルカ問題は、現在、オーストラリアの環境問題として最大のものであり、新聞一面で扱われることも度々ある(毎日新聞97.11.11を参照)。また、世界遺産条約を担当する機関であるユネスコが何らかの勧告を発する可能性もある(ちなみに世界遺産委員会の次回会合は、98年11月に京都で開催の予定!)。関電が、こういった状況を単に認識していないのか、それとも知らないふりをしているのかは、よく分からない。オーストラリアの「僻地」のウラン鉱山の話なんて、ほとんどの日本人に意識されない、というのも確かに「現実」ではあろう。ところが、実は、ジャビルカのすぐ近く(車で5分もかからない!)ところにあるオベリー・ロック(アボリジニーの言葉で「ウビル聖地」)は、カカドゥ観光の名所のひとつ。連日、日本人ツアー客をふくむ訪問客で賑わうスポットなのだ。ひょっとしたら読者のなかにも、オベリー・ロックに登って、マジェラ大湿原(乾季には大草原)の壮大な景観に息をのんだ経験のある人がいるかも知れない。そのすぐ脇で、日本の原発燃料となるウランが掘り起こされ、そのために土地の本来の持ち主である先住民族の権利が制限され、湿原は放射能汚染におびやかされるのである。
 地元のアボリジニー(ミラル・グンジェミ氏族)は、連邦裁判所に提訴する一方、操業開始を阻止するため道路封鎖を予告。オーストラリアの主だった環境団体(地球の友、豪州自然保護基金、原生自然協会、北部準州環境センター、グリーンピースなど)はアボリジニーを支援して、現地での非暴力直接行動の具体的準備にはいりつつある。日本からの参加も呼びかけられている。3月以降(雨季あけ)が山場となるだろう。

ジャビルカ開発問題について、詳しい情報や資料を希望される方は、下記へお 問合わせ下さい。
      〒606-8588 京都精華大学 細川研究室気付 ジャビルカ基金事務局
      tel & fax 075-702-5213
      電子メール magpie@kyoto-seika.ac.jp

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http://www.kyoto-seika.ac.jp/newdi/kankyo/maga/index_01.htm#01
をのぞいて見て下さい。
カンパも歓迎だぞ! (→郵便振替 01700-1-19686「ジャビルカ基金」)


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