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中国への原発輸出攻勢の現状と日本

宮嶋信夫


米国、原発輸出に乗り出す

  中国共産党の機関紙・北京人民日報の今年の年頭の社説で「1997年は満足できる年であった」と。江沢民国家主席の訪米の大成功、対米関係の改善を実現できたことを特に高く評価している。たしかに米国と中国との政治的、軍事的緊張が大きく緩和したことは歓迎されることである。だが、共同声明が述べている原子力協定の凍結を解除して米国が中国向け原発輸出に乗り出すことは、中国民衆にとって決して好ましい事態をもたらすものではない。
  米中首脳会談での合意について、直後に、米国の原子力業界団体は「中国の原発建設の市場規模は総額で約500億ドル、米国の中国向け原子力関連機器の輸出額は年間10ー20億ドル(2010年までに合計150億ドル)となり、1万5千人ー3万人(2010年までに22万人)の雇用につながる」
(米国原子力エネルギー協会=NEI)と期待している。つまり、原発の注文が激減して産業として危機的状況に陥っている原子力業界にとって起死回生の妙薬となるというわけだ。それを裏書きするように10月29日夜の米国側主催の公式晩餐会にはGM,IBMなど米国大企業代表のなかにはゼネラルエレクトリック、ウェスチングハウス両社代表もいた。
 中国の原発建設に大きな期待をかけているのは米国だけではない。秦山3号機、大亜湾原発はカナダのCANDU,フランスのフラマトムであるが、これはカナダ、フランスの両国が首脳外交によって原発輸出を成約させてきた。中国は原発購入の見返りとして極めて有利な条件で融資を受けたうえ、国際政治、外交面でも利益を得てきた。

三菱重工・日立・東芝の動き

  昨年秋の米中首脳会談をきっかけに活発化してきた米国の動きと符節を合わせるかのよう日本の中国向け原発ビジネスも大きく動き始めた。三菱重工は秦山原発の1・2号機の原子炉格納容器を受注したが、同社副社長で原子力本部長の永井康男氏は次のように語っている。「これまで中国に原子力単体機器を輸出してきたという自負があるだけに力を入れたい、中国は今後1千万KW強の原子力開発が見込まれ、どのメーカーも注目している。この場合、中国側にいかに貢献するかが焦点となるわけで、技術的優位性、国産化への協力、経済性追求、ファイナンス保証などがある。中国向け営業についてはさまざまな機会を通じて技術説明やプレゼンティションを行っている」(電気新聞97年9月25日)
 また日立製作所は中国に焦点を絞った営業活動を展開するため8月21日付けで原子力事業部内に「中国プロジェクト室」を設置して体制を強化した。これまでも秦山原発1号炉の炉心槽を供給した実績を持つが、今後は改良型沸騰水炉(ABWR)の中国向け輸出の実現に力を注ぐ。そのために輸出用ABWRのコスト節減計画を1,2年でまとめるという(電気新聞9月12日)。
 ところが米中首脳会談後の12月にはさらに具体的な動きとなった。ABWRの台湾向け原発輸出をゼネラル・エレクトリック社を窓口にして合弁で契約した日立、東芝は中国向け原発輸出でも似た方式で輸出工作を進め始めた。日立、東芝、GE、東京電力の4社が清華大学と共催で行った12月16日のセミナーで、原発設備の許認可に当たる国家計画委員会の原発担当者は「ABWRに大きな関心を持っている」と発言したという。中国では沸騰水型原発の建設実績はなく、すべて加圧水型であったためこの発言は原発業界で注目されている。GEの代表はこの発言について「中国は沸騰水型導入を排除していない。条件が成熟し次第、技術移転は可能だ」と述べている。(12月17日共同ーCHINA NEWS)  
 加圧水型メーカーも同様な動きを始めた。12月10日付けでウェスチングハウス社、三菱重工、スペインのメーカーの3社はグループを結成したと報じられており、加圧水型、沸騰水型原発メーカーはそれぞれ国際的な企業グループを作ることにより中国への原発輸出攻勢を始めたことに注目する必要がある。

日本政府の支援

 原子力業界だけではない。日本政府は中国向け原発の輸出支援ともみられるような工作を並行して進めている。
  原発運転によって発生する放射性廃棄物の管理と処理問題は現在の主要な難問の1つである。日本の科学技術庁は12月はじめ北京で中国核工業総公司との共催という形で「放射性廃棄物管理セミナー」を開催した。参加国はアジア9か国、これは毎年日本政府が主催して行っているアジア地域原子力協力会議の活動の一環として行ったもので、放射性廃棄物管理セミナーとしては一昨年の東京、昨年のマレーシアに続いて3回目である。日本からは2日間のセミナーで5人も発言、原発推進のための放射性廃棄物管理の重要性とそのためのアジア諸国の協力関係の強化を確認し、セミナー参加者は大亜湾原発近くで来年10月操業予定の北竜処分場建設現場を視察した。
  原発運転にともなう廃棄物の管理、処分問題はすでに運転経験がある韓国、台湾、日本が打開策を見いだしていない難問で、台湾の廃棄物を北朝鮮に運び出そうとして国際的批判が起きたことは記憶に新しい。中国にとっても原発建設計画が進行すれば最大の難問となり、中国政府が対策に困惑することは目に見えている。日本政府の指導性のもとで開催された会議がどのような対策をとろうとしたか、徐々に現れよう。

被害の責任は誰が負う

 中国の原発被害は放射性廃棄物問題に止まらない。たとえば大亜湾原発でも94年から97年2月までにレベル1の事故・故障が21回起きた。95年2月には制御棒が規定時間内におりない、規定時間を0.5秒上回っていたという。炉心の核分裂反応が急速に高まる反応度事故は数分の1秒以内に急上昇する。設計段階では予測しなかった制御棒とガイドチューブの摩擦が起きていた(朝日新聞97年6月6日)。情報公開がないから知ることはできないが、部品・器材の補給体制、技術移転、研修訓練不足など原発輸出側が責任を負うべき原因から事故がおきた可能性は高い。
 工業化を急ぐ中国にとって急増する電力需要を満たし、逼迫しがちな資金供給の面でも負担を免除してくれる日欧米からの原発輸入は魅力に満ちていると見えたとしても不思議ではない。事実、中国では経済成長にともない電力需要は年率8%の伸びを示しており、発電施設の拡充が需要の伸びに追いつかず、それが経済成長のブレーキとなっている。100万人以上の人々の立ち退き移住、数多くの歴史的遺産水没をともなう三峡ダム建設による水力発電所も、深刻な環境への影響が憂慮されているにもかかわらず建設工事は進められている。砂土埋蔵の期間が早く到来すること、修復できない自然環境への被害などから世界的にも大型ダム建設は反省期にあるなかで、中国の電力供給政策には世界が憂慮している。1990年代に世界的に普及してコスト低下し、原発コスト以下となったといわれる風力、太陽光発電など自然エネルギーへの転換が強く求められている。

 


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