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<核廃棄物国際セミナー(ソウル)報告>

飢餓に苦しむ国への核のゴミ押し付けに
日本は「拉致事件」キャンペーンをあおるだけでよいのか

大庭 里美


 今年の1月、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)での台湾の低レベル核廃棄物貯蔵というニュースを新聞で知って大きなショックを受けた。これが実現すれば、他国を核のゴミの最終処分地として廃棄物を搬出する最初の例となるだろう。

* 実は核廃棄物の搬出ということで言えば、すでに日本からヨーロッパに7千トン以上の使用済み核燃料が送られている。これはあくまで「再処理」という名目であり最終処分地ではない。セラフィールドとラアーグがそうなる恐れは多分にあるが。

 韓国環境運動連合(KFEM)とグリーン・コリア、台湾環境保護連盟(TEPU)などの動きは早かった。環境運動連合とグリーン・コリアのメンバーは直ちに台湾へ抗議に行き、国外退去のうき目にあった。ずっと気にかかっていたこの問題で4月24〜25日、ソウルで「台湾から北朝鮮への核廃棄物搬入を阻止するための国際セミナー」が開催されることになり、ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパンからは静岡大学の小村浩夫教授が行かれることになっていたが、グリーン・コリアとKFEMから要請があって急に参加することになった。
 このセミナーには、韓国、日本のほかに台湾TEPUからは副秘書長の許レナタ、非核フィリピン連合のコラソンさん、インドネシアからはMANI(インドネシア反核連盟)のA(安全の為に名前は伏せます)さん、グリーンピース・チャイナ(香港)からホ・ウェイチさんなどが参加し、またオランダからWISE(世界エネルギー情報サービス)インターナショナル、アメリカの市民団体なども参加し、欧米でもアジアの反核運動への関心が高まっていることがうかがえた。

  24日のセミナーには約50名が参加し、各国の現状を報告し、議論を深めた。日本の状況については小村先生が多岐にわたる問題を大変手際よくまとめて報告してくださった。「台湾−北朝鮮の核廃棄物輸送は、その2国の国内問題ではなく東アジア全域の環境と安全保障にかかわる重大な問題である」「飢餓問題を抱える国に、核廃棄物を送るのは倫理的にも許されない」「核の問題は、アジアにおいては民主化の問題でもある」(とりわけインドネシアなど)などのことが確認された。

 25日には、海外代表と韓国代表たちで午前中これからの方向と戦術について討議し、KFEMの14・14キャンペーン(14日の午後2時)、5月17日の台北での国際会議でハンストを行うこと、さらに9月のフィリピンでの第5回ノーニュークス・アジアフォーラムなどについて確認しあった。
 この中で興味深い情報を得た。4月10〜15日ソウルで開催された国際国会議員連盟(IPU)の決議文の中に、「核廃棄物の国外への輸送に反対する」という一節が採用されたというのである。これには日本から衆参両議院から10名が参加していた。広島の菅川氏などは、これに参加していたために、プルトニウム政策に関するアンケートに回答できなかったそうなのである。しかし、このような決議がなされたことは非常に喜ばしいことである。
 午後、台湾代表部のある建物の前でチェルノブイリ11周年の追悼集会を行い、プラカードにそれぞれの言葉でチェルノブイリへの思いを書き、KFEMのチェ・ギョンソン氏の妹が「君のための行進曲」をバイオリンで奏でる中で献花を行った。その後やはりバイオリンの伴奏で「朝露」を歌ったりして終了。 それからコラソンさん、 WISEのピエール、ホンコンのホ・ウェイチ、そして筆者が韓国の代表とともに代表部書記官と会った。書記官の夏さんはていねいにひとりひとりの意見を聞いてくれた。
 「台湾政府は、まだこのことについて、台湾電力の正式な申請は受けていません。台湾政府としても、この問題については非常に慎重に対処するつもりです。もし処分予定地が安全でないということがはっきりすれば、政府は絶対に許可しません」と夏書記官は明確に述べた。コラソンさんが「処分地の安全だけでなく輸送の安全性も問題なのです」と述べる。台湾代表部の対応は非常によかったというのが、全員の一致した感想だった。とくにコラソンさんは「3年前の釜山の日本領事館よりずっとよかったわ」としきり。

  いつもながら純粋さと情熱に溢れたアジアの青年たちに感動すると同時に、北の飢餓問題に日本がいかに冷酷であるかということにも恥ずかしさを覚える。グリーン・コリアやKFEMなどの環境団体でも飢えに苦しむ北の人々を救うために食料を送る運動を行っている。このような時期に、情報源もあやしげな「拉致事件」を全面に出して、食料援助を渋っている日本政府の姿勢は人道主義からは程遠い。

 北朝鮮に、核のゴミではなく食料を!

  日本の核物質輸送を止めよう!

 国際国会議員連盟(IPU)の決議を生かそう!


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