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■京都COP3は反原発運動にとって逆風か■

熱帯林行動ネットワーク(JATAN) 小倉 正(おぐ)


【温暖化の仕掛人は電力産業か?】

 88年に温暖化の問題が初めて米国のマスコミに載るようになって以来、日本国内では電力業界やら通産省やらが、一貫して原発推進の名目として温暖化問題を使ってきました。
 では論争の本家本元である米国の状況を振り返ってみましょう。
 米国では、石油危機の対策として、発電燃料を石炭へとシフトしていたこと、また78年以降、コスト競争力がない原発は新規立地が全く無かったことから、温暖化問題が持ち上がった時にも、原発推進がことさら強調されることはありませんでした。その結果、温暖化の科学論争の中では、米電力業界は石炭石油業界と足並みを揃えて地球温暖化への懐疑論を唱え続けてきました。
 現在の地球温暖化の論理は多くは米国の科学研究の成果ですから、米国の産業界の懐疑論の逆風に耐えて地歩を築いてきたという点で、それなりに信頼できるものであると言えます。ですから日本の電力会社の宣伝文句とは区別して取り扱うべきです。

【科学論争の現状―IPCC報告では】

  IPCC(気候変動に関する政府間パネル)というのは実際は科学者が個人として参加している科学アセスメントの機関です。その内の第一作業部会では温暖化の科学、第二作業部会では社会経済的な影響の予測、第三作業部会では適応と緩和のための政策評価として、社会科学の分野も含んでいます。
 90年のIPCC第一次報告書では、温暖化が起こっているかどうかは不確かだ、としていましたが、95年のIPCC第二次報告書になると、温暖化は現実に起こっていることだという認定がなされ、これが条約での対策強化を目指す大きな根拠になっています。しかし科学の権威が通用しているのは、温暖化の自然科学を扱う第一作業部会の部分に限られていて「低コストないしマイナスのコストで実行可能な緩和策が数多くある」といった、社会科学側の研究報告は、これまでのところ各国政府には受け入れられていません。

1)温暖化はどこまで分かっているか?

 以下に示すように、異常気象の観点から見ても、平均地表気温の上昇という点から見ても、気候変動は現在すでに起こっています。

2) 社会経済的な影響は?

  たとえこれからCO2の排出削減策が取れ、大気中のCO2濃度が安定化したとしても、その後も海面の上昇は長期間続くため、珊瑚礁でできた山のない島国では100年単位で海中に沈んで島がなくなり、流浪の民となることはほぼ避けられないことです。
  また、気候変動の影響を受けて、シベリア、カナダの亜寒帯林を中心に、世界の森林も1/3が干ばつや山火事や病虫害の影響で枯れます。その土地にはやがて別の植生が育ちますが、枯れた時点で森林と土壌中に蓄積されていたCO2が急激に大気中に放出されるため、更に温暖化を増幅する事が危惧されています。
  ここでもっと問題なのが、より暖かい地域の植生が移動してきて気温の上昇に適応する ことができる速度の問題で、別の植生が入り込んで育っていく速度よりも気温の変化速度が早くなった場合は、自然の植生そのものが全滅することになります。
  この気温の変化速度の限界(10年間に約0.1度の上昇率)を指標にして、今から必要なCO2排出量の削減率を求めた「安全排出コリダー」という概念が、早急に急激なCO2削減計画を作るべきだという主張(AOSIS議定書案など)の根拠になっていますが、この概念自体はIPCCの第二次報告書ではまだ権威づけられてはいません。(図2)
  また、人間は国境を越えて移動できませんから、森林に依存して暮らしている先住民族は生活の基盤を脅かされますし、農業とその元になる水資源、台風の頻度などは大きく影響を受けるでしょう。まだ日本程度の狭い地域で整合性のとれた予測をできるほど、気候変動の詳細な予測は出来ないので、言えることは、なんらかの気候の変化にいやがおうでも適応させられることになるということだけです。
  また、西日本がマラリア多発地帯になるなど、多くの人が新たに熱帯産の病気に罹ることも予測されています。

3)適応と緩和のための政策

(1)IPCC報告書の中の原子力についての見解
 原発については、下記の如く第二次報告書でも僅かな行の客観的な?記述があるだけです。


 <原子力エネルギーへの転換>
 原子力エネルギーは、原子炉の安全性、放射性廃棄物処分、核拡散について一般的に受容される対応策が見つかれば、世界の多くの地域のベース・ロードの化石燃料発電を置き換える可能性がある。

 <対応戦略の包括的評価>
 ・原子力エネルギーは、数十年にわたり多くの国で展開されてきた技術である。しかし、多様な要因が原子力発電の拡大を遅らせてきた。これらの要因には、(a)核の事故から生まれた公衆の冷ややかな認識、(b)原子炉の安全性、核分裂物質の拡散、発電施設の老朽化、及び放射性廃棄物の長期的な処理に関して、未だ十分に解決されていない諸問題、またある場合には、電力需要が想定された水準より低いことなどがある。規制や立地難は、建設のリードタイムを増加させ、いくつかの国では資本費をより高くしている。これらの問題、とりわけ、上で述べた社会的、政治的、環境的見地からの諸問題がもし解決可能であれば、原子力エネルギーには世界全体のエネルギー生産における現在のシェアを高める潜在的可能性がある。
(IPCC地球温暖化第二次レポート 環境庁地球環境部監訳ISBN4-8058-1482-9 より)


 高速増殖炉や核融合炉というのは、技術的なハードルも高いため、将来を担う現実的なオプションとしては検討していません。

(2)日本政府の目論みは?
  以上見てきたように、IPCCの報告書からは原発推進の必然性などを読み取ることはできません。ただ、各国の政策にはそれぞれの思惑があるようです。共通で実施する政策をいくつか作ろうとするEUの立場に対抗して、米国と日本は、選択式にすることで義務的な政策を避けようとしています。
  日本政府が対外的に望んでいるのは、原発をメニューの一つとして記入すること、そしてフランスなどといくつかの国で共同で、原発推進を唄おうとするでしょう。
  まあしかし、フランスの新政権は??面白そうな状況ではあります。
 とはいうものの、現実問題として、長期エネルギー需給で述べているような、更新分を含めて100基単位の原発をあと30年で作るような建設計画が実現する可能性がないことは誰でも分かることです。自国でも推進しているという姿勢を保つ事によって、実際は途上国への原発輸出市場への参入を進めることが本当の狙いでしょう。
 日本でも、実現不可能な原発推進の計画をCO2削減の見積りに使われては、決して削減目標を達成できないということを今ここで指摘して、つぶしておく必要があります。
さもなければ「温暖化対策に非協力的な市民による(原発建設)反対のせいでCO2削減計画が達成できなかったのであって自分たちの責任ではない」てな未来の官僚の弁解の口実として使われておしまいになるでしょう。

(3)世界のエネルギー需給シナリオ
 エネルギー需要を大幅に削減した上で、その減った需要を賄うために、再生可能エネルギーを中心に供給していくという需給シナリオLESSがIPCC報告書でも公表されています。ちなみに、再生可能エネルギーの中で一番大量に供給できると見込めるのが、木質バイオマスエネルギー(いわゆる薪炭材)です。

 一般的には、石油を初めとする化石燃料の消費削減のために、あらゆる分野の対策を実施することが必要ですが、経済学者の議論に基づけば、コストが安い対策、あるいは対策をしたことで儲けが出てくる対策をまず行い、その設けた金で比較的高価な対策を行うようにするのが一番効率的だ、という、最小コスト計画(Least Cost Planning, LCP)あるいは統合資源計画(Integrated Resource Planning, IRP)の概念に基づいて議論されるべきです。
  イギリスの研究では、温暖化対策としては、省エネの方が原発の7倍も、そして再生可能エネルギーの導入の方が原発の2倍もコスト効果的である、という試算をしています。だから、原発につぎ込むお金があるのなら、他の安上がりな対策を行えば、はるかに大量のCO2を削減できるということですね。
  高価な原発が日本で対策として議論されていること自体も変な話でして、元々日本政府の政策にはLCPの概念が入っていませんから、この機会にLCPの概念を導入させる事が必要でしょう。

【国際条約の意義】

 温暖化の対策とは大気中のCO2(と他の温室効果ガスの)濃度を公共財とみなして、石油、石炭の消費を規制することですから、例外なくあらゆる立場の団体(国やら、企業やら)にその規制を守らせることが必要となってきます。しかし、実際は国際社会というのは、主権国家を統治する秩序が無い現状ですから、仮に厳しい内容の条約を作っても、その厳しさを嫌って参加しない国が出てくれば、強制も出来ず、名目だけで役に立たない空証文になってしまいます。つまり、厳しさと多数の政府が合意する対策内容との間の綱引きが行われる羽目になります。
 今回、一番の拒否権国は米国です。自動車に代表される化石燃料の大量使用により、一国で世界中のCO2排出総量の1/4ほども占めているからです。
 2番目の拒否権国はOPEC諸国です。石油の消費量の減少は石油販売の上がりの減少に直接結びつくからです。でも結果的に石油の消費量が削減できなければCO2排出量は減りませんから、アラブの経済に悪影響があるかぎりなんの対策も取れない、なんて論理を通す訳には行きません。
 こういう個別の主張を受けて、条約の中では「(途上国と比べて)先進国に差異のある責任がある事」と、「予防原則を取る事」で合意が出来ていますし、ベルリンマンデートの中でも先進国がまず削減するという合意があります。しかし米国は、途上国に対しても同時に目標を課すべきだと抵抗しており、「排出権取引」や「共同実施」などでも途上国を巻き込もうとしています。

【京都COP3で何が決まるか】

  95年のベルリン気候サミット(COP1)では、IPCC第二次報告書の結論を受けて、これまでの気候変動枠組み条約の目標「各先進国は、2000年までにCO2排出量を1990年レベルに抑えることの必要性を確認する。」では不十分であるとして、COP3までに、2000年以降の先進国の温室効果ガスの排出量を1990年レベル以下に削減する目標で合意することを課題として課しました(ベルリンマンデート)。つまり京都会議ではそのベルリンマンデートの課題が決着する期限です。
 また、昨年のジュネーブでのCOP2では、京都では議定書などの形式をとった、法的拘束力のある削減目標を立てることが閣僚宣言の形で合意されました。

 日本政府は本来、議長国として条約交渉を進めるために、積極的な目標の提案をすべき立場です。にもかかわらず、何の前向きな姿勢も示していないため、リーダーシップ不在であると内外のNGOから批判されています。
 はっきり言って、今は米国と日本政府の後ろ向きの態度のために、非常に芳しくない状況にあります。

 日本政府が交渉の場でなぜリーダーシップを発揮できないのかと言えば、国内での有効なCO2削減政策を打ち出せないからです。なんでそんな国が議長国を引き受けてしまったのか、首をひねることだらけですが、なんとかして京都COP3で実のある議定書を作らせるように圧力を掛けるのは、他ならぬ日本のNGOの責任です。
 地球サミット以来の環境に関する国際的な協議の場では、生物多様性条約にしろ、森林問題の討議にしろ、アジェンダ21にしろ、市民の側の勢いが失われているので、現在世界のNGOが推進力になって進めている気候変動枠組み条約も、京都会議が失敗したら、同じく漂流を始めることになりかねません。

【COP3に向けてNGOは何をしようとしているか】

 やはり、日本のNGOがすべきことは、日本政府のエネルギー政策及び経済成長を優先した産業政策を変えさせることです。

 →対策の必要性を強調する
 →対策の実現可能性を探る
 →対策を取る上の障害を同定する
  →温暖化で特に被害を受ける業界を説得し、味方に付ける
 →各自治体へ働きかける

などを色々なNGOで共同して行うのは、総力戦でやらざるを得ません。

 昨年12月より、国内の百数十の環境保護団体の集まり、気候フォーラム(事務局、京都)では、京都での国際交渉を成功に導くために、世界の環境保護団体が構成する気候行動ネットワーク(CAN)と協力して各国政府に圧力を掛けるためのロビー活動をしています。
 5月末には通産省との討論、6月13日には各政党への申し入れなども行い、また国連環境特別総会の場などでも政府代表団への働きかけを行う予定です。

 CANのメンバーは共通して、各先進国締約国がCO2の排出量を2005年までに90年レベルから20%削減する事を求めたAOSIS(小島嶼国連合)議定書案を支持し、各国政府に同意するよう要求しています。
 また、気候フォーラムは10の主張を作りました。この主張に基づいて活動を行っていくことになります。原発については、「放射性廃棄物や安全性に問題のある原子力発電は代替エネルギーにはなりえません。」と簡単に触れています。 (10の主張の詳細は気候フォーラムにお問い合わせ下さい。TEL:075-254-1011)
 厳しい、早期の対策の必要性を納得してもらうために、全国の市民に対して温暖化問題の普及、啓発活動としての連続学習会や、資料、スライド、ビデオの作成などを行っています。

 本会議直前では、海外のNGOの受け入れや、12月1-10日の間、京都での並行NGO集会などの受け入れ準備、本番でのNGOニュースレター「ECO」の日本語版発行とそれに基づくロビー活動を計画しています。(私は日本語版ECOの編集部として関わることになりました。ご協力のほどを宜しくお願いします。)

 京都のCOP3が成功すれば、文明の転換とも言うべき変化を世界中に与え、また日本社会にも与えることになるでしょう。京都のCOP3が失敗すれば、地球環境問題に対しての国際条約に基づく対策はほとんど全滅に近い停滞を被ることになるでしょう。
 反原発運動に携わっている皆さんにも、あと6ヶ月足らずの間ですが、気候問題に関わる運動団体と連携をとって、エネルギー政策の改革という重要な項目を受け持って力を尽くして頂きたいと思います。エネルギー政策の議論の土俵として単に利用して頂くだけでも構いません。

 


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